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給食業界をとりまく環境変化~給食コストの上昇
2024.02.09
コラム
投稿者:加藤 肇
Nutrans2024年1月号では、『給食コスト』の上昇について話をしたが、給食の2大コストである『食材費』と『人件費』は、今後も上昇が予想される。また、Nutrans2023年12月号では、『人口減少』について話をしたが、国内の生産年齢人口(15~64歳人口)の減少は、今後も継続すると予想される。
日本は世界に類を見ない超高齢社会であり、生産年齢人口は1995年をピークに減少し続けており、2025年には7,310万人、2035年には6,722万人、2045年には5,832万人まで減少すると予想される。2025年から2045の20年で1,487万人、約2割減少することになる。
その結果、労働力の不足、国内需要の減少による経済規模の縮小など様々な社会的・経済的課題が深刻化する。
(出所:国立社会保障・人口問題研究所)
給食業界の中で最も市場規模が拡大しているのが病院給食と高齢者施設給食を包括したメディカル給食市場である。メディカル給食業界では、医療や介護の現場において、サービス受給者(高齢者)の増加に対し、サービス従事者(医師、看護師、介護師など)が慢性的に不足している。給食現場においても、栄養士や調理師などが不足しており、今後更にこれが加速すると予測される。
これを解決する手段として、①女性が働きやすい職場作り、②高齢者の雇用拡大、③外国人労働者の受け入れ、④労働生産性の向上(現場の省力化・省人化)などが挙げられる。
女性の就業者数は、2022年平均で3,024万人となり、前年より22万人増加した。女性の就業者数は、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響により、前年より減少したが、2012年から2021年までの9年間で約340万人増加している。
(出所:厚生労働省「労働力調査」)
高齢者の雇用拡大については、既に大手給食サービス企業で定年年齢の延長などが進んでおり、給食業界全体でも雇用拡大が予想される。
高齢者(65歳以上)の就業者数は、2004年以降、19年連続で増加しており、2022年は912万人と過去最多となった。
(出所:厚生労働省「労働力調査」)
外国人労働者については、技能実習生制度の見直しなどが進んでいるが、需要に対して供給が追い付いていない状況にある。
外国人労働者は、近年急速に増加しており、2020年と2021年は新型コロナウイルスの感染拡大により横ばい推移したものの、2022年は182.3万人まで増加し、増加基調に転じている。外国人労働者数は、この10年超で3倍を超えている。
なお、外国人を雇用する事業所数は、「卸売業、小売業」が最も多く、全体の 18.6%を占め、外国人労働者数は、「製造業」が最も多く、全体の26.6%を占めている。
(出所:厚生労働省「外国人雇用状況」)
労働生産性の向上については、メニュー開発や食材調達のパッケージ化、加工度の高い食材(やわらか食など)や完調品の導入が進行しており、働き方改革が言われる中で、現場作業の効率化が図られている。今後も人手不足が進行することを考えると、加工度の高い食材は需要拡大が予想される。
給食の現場ニーズを的確に捉えたサービス提供、商品開発が不可欠である。
ブラック企業とも揶揄されかねない外食産業に属する給食サービス業は、朝食や土日の食事を提供することから、人が集まりにくい業種のひとつである。
給食の人手不足を解消する妙手は見当たらない中、給食サービス業では様々な取り組みを進めている。
A社では、人事制度を改め、成果に対して適切な評価ができるように見直し、従業員の業務に対するモチベーション向上につなげている。
B社では、人手不足に対応するため、完調品の導入もやむを得ないとし、費用対効果や手づくり感のあるメニュー提供に努めている。
C社では、朝食メニューにオリジナルの完調品を活用するなど、業務の効率化を図っている。
D社は、全国の営業所で障がい者を積極的に雇用し、外国人社員を採用している。
E社は、技能実習生の受け入れを開始、技能実習生として日本に入国する前の育成研修を目的にミャンマーに現地法人を設立している。
F社は、昇給年齢を65歳まで引き上げ、店長クラスのベテラン社員のモチベーションを向上させている。栄養士・管理栄養士で構成されるプロジェクトチームを設置、女性の活躍を促進している。また、子育て支援の一環として、子どもが小学校6年生まで時短勤務を選択制としている。
G社は、全国の事業部に人事課を設置し、地元の大学や専門学校での学卒採用を強化している。また、離職防止に向けて、新人事評価制度をスタートさせた。
H社は、年齢だけでなく、文化、国籍、性別などを問わず有能な従業員を採用、適材適所に配置している。また、事業所責任者の半数以上を女性が占め、20~30代の若い管理職も多数在籍する。
今後も解消が難しいと思われる給食業界の人手不足であるが、給食サービス企業では、人財の採用や定着に向けて、女性が働きやすい職場を作り、高齢者の雇用を拡大し、外国人労働者の活用を進めつつ、従来型のビジネスモデルを見直すことで労働生産性を向上(現場の省力化・省人化)することが喫緊の課題と考えられる。これらを実践することで安定的に事業を継続することが可能となろう。
加藤 肇(かとう はじめ)
株式会社 矢野経済研究所
フードサイエンスユニット ニュートリショングループ 特別研究員
大学卒業後、食品メーカーと広告代理店を経て、1989年に矢野経済研究所に入社。食品産業、ヘルスケア産業、農業園芸産業、外食産業など、主に消費財分野を担当、現在は給食、臨床栄養、高齢者食品、パンなどのテーマ分野を担当。新規事業の事業化調査、販路開拓調査、中小企業支援、外資系企業の国内参入調査、各国大使館の日本市場開拓支援など、様々な調査・研究活動に携わる。また、中小企業育成支援事業、知的クラスター事業、経済産業省の特定産業支援事業(食文化産業の振興を通じた関西の活性化事業、フードサービス産業におけるスキル標準の策定と能力評価制度構築事業)などの公的研究テーマにも実績がある。
●直近の製作資料
<2022年版>給食市場の展望と戦略
<2022年版>嚥下食、咀嚼困難者食、介護予防食に関する市場実態と将来展望
<2022年版>介護食、高齢者食、病者食(特別食、調整食)の市場実態と展望
<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望
<2023年版>栄養剤、流動食、栄養補給食品(経口、経管)に関する市場動向調査