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食と健康の未来
2021.01.15
コラム
投稿者:白井 ひで子
子どもたちは今どんなものを食べたいと考えているのかな・・・? 世の中の情報に敏感な子どもたちです。流行っているもの、注目されている食材・料理は給食にも反映させたい!
私は学校給食という職域で、栄養士・栄養教諭として「食」に携わり約45年になりますが、その間、大量調理の中で、今ある調理道具の中でと様々考えて実践してきました。「そばめし」を提供した時には、周りの大人からは「話題とは言え、あえて給食に出す意味があるのか」と賛否色々ありましたが、子どもたちには大うけ。「メロンパン」に挑戦した時には調理工程の多さとデリケートな作り方に調理員さんから大ブーイング、しかし残量は“0”でした。おいしいと喜ぶ子どもと調理現場の意識の差の中で、「栄養士の立場はこんなものか」と納得させながら次の料理を考えます。繰り返す内に、給食のサンプルケースをのぞいて嬉しそうにしている子どもの気持ちが浸透すると、メロンパンは私も含め調理員が張り切って調理する献立と変わりました。
大失敗もありました。25年位前でしょうか、「むらさき芋」がまだ広く出回っていない頃です。紫色の蒸しパンを作ろうと考え、八百屋さんにむらさき芋の入手をお願いし、やっと全児童分の確保にこぎつけ意気揚々と実施。生地に混ぜるだけでなく、上にもあしらい、きれいな薄紫色の生地に濃い紫のトッピングのイメージで取り掛かりました。しかし、出来上がった蒸しパンはとてもまずそうな灰色、トッピングの芋はそのまま鮮やかな紫、この色彩の組み合わせは、まるで悪くなったパンにカビがついているような・・。味はとってもおいしいのですが、とても食べ物とは思えない見た目になってしまい本当に大失敗。
しかし他に替わりは無いので、給食時に配布していた「おたより」をいっぱいの言い訳で埋め尽くし、食べてもらいました。試作をするにも、むらさき芋がなかなか手に入らない頃だったので、事前にやっと手に入った量では、試しに蒸してみるのが精一杯でした。その時は何の問題もありませんでした。でも実際の給食では、乳製品と混ざったむらさき芋が色を変えました。事前に色素であるアントシアンの安定化が必要だったのです。
今では、安定化されたむらさき芋のパウダーが出回り誰でもきれいに作れますが、私にとっては何年たっても忘れられない1品です。この時、まったく初めての料理では調理員さんも交えた試作をしなくてはならないと実感しました。そしてこれを機に、一緒にやることが、より確実でより良いものになっていくことも実感しました。
食材の切り方1つから、調理の手順や素材の選択など、調理員さんから得ることも沢山あります。例えばハヤシライスでは、肉・タマネギとともに、栄養の視点からニンジンを入れていました。しかし調理員さんよりニンジンは抜いた方が良いとの意見が出ました。試してみたところ、デミグラスの味が想像以上に際立って、ハヤシライスは子どもにより人気のメニューとなりました。
これ以来、栄養としてのニンジンは、サラダで摂取して貰うこととなりました。この様な試行錯誤をいつも繰り返しているとideaも苦しくなりますが、料理を出した時の子どもたちの表情や言葉で報われる想いです。また、1人で考えるのではなく調理員さん方の知恵をもらえることができたので続けてこられました。
学校給食は、文部科学省から出される衛生管理基準に従って日々実施されます。しなくてはなりません。私は学校給食の世界に40数年携わってきたので、一番大きな転機となった大阪府堺市で起こった「o-157」による食中毒発生時の体験をしています。
それまでの衛生管理基準が信じられないくらい大きく変わり、現行のようになりました。提供する料理は大半が加熱しなければいけないこと。中心温度を確認して記録することです。生野菜の提供は無くなり、どんな料理も中心温度を75度または85度になっているか確認しなければならなくなりました。全ての料理を見直しながら実施していました。
加熱することでいいこともありました。サラダです。野菜を加熱することでドレッシングが絡みやすくなり、子どもたちは「学校のサラダはおいしい」というようになりました。サラダの野菜の加熱は一般の回転釜で行う場合、野菜を投入して湯温が85度1分です。これが野菜のシャキッという食感を残して、味がよく絡んで食べやすいサラダになりました。ドレッシングもこれにあった配合で試行錯誤して作りました。
一方で、色々試行錯誤したのが「ソース焼きそば」です。ソース焼きそばは、ご存知の通り炒める料理です。そして、子どもたちの大好きな料理です。炒める料理は中心温度が中々上がっていきません。どうやったら焼きそばが提供できるか・・・試行錯誤の中周りから「何でここまで・・」と言われてしまったのが「ソーススパゲッティ」でした。スパゲッティならば茹でたてを炒めた具材と混ぜれば、中心温度が確保できる。「これだ!」と思ったのですが。クレームをいただき「スパゲッティはスパッゲティとして提供してほしい」と言われてしまったのです。ガックリでした。さらに試行錯誤し辿り着いたのが、蒸し麺を揚げる方法でした。表面が揚がることで食感が良くなるだけでなく、ソースがよく馴染んで、むしろ炒めたものよりもおいしく感じられる「焼き?そば」となりました。置かれた条件の中で、もがくことは、それなりに楽しく達成感も生まれました。
学校給食は、実施にあたり様々な制約があります。衛生管理のこと、必要栄養素のこと、食物アレルギーの対応などなど。それらは遵守して当たり前です。それが安全・安心な給食です。さらに今回のように突然休校になるという「コロナ」対応なども異例なものですが、向き合わなければならない現実です。私が1番給食をどうしよう・・と考えさせられ向き合ったのは、3・11の災害時でした。
学校給食は、確かに重い責任も伴いますが、同時にやる気に繋がっていました。目の前の子どもたちにとって楽しいお昼ごはんとなる献立を日々考え、子どもたちを通して見えるその時代に、そこに「食」を通して寄り添う、そんな仕事がとても楽しく好きでした。今回、コラムを執筆する機会をいただきましたが、こんな経験を基に、子どもたちから見える「食」、食に関する指導の実践、そこに関わる方々について、お伝えできたらいいなと思っています。
東京家政学院 特別非常勤講師 兼 三信化工 食育アドバイザー
1976年2月 東京都教育委員会入庁 学校栄養職員として勤務
2009年4月 小平市立小平第六小学校 栄養教諭として勤務
2019年11月 文部科学省学校給食功労者表彰
元 女子栄養大学 特別非常勤講師
元 愛国短期大学 特別非常勤講師
現在 東京家政学院 特別非常勤講師
三信化工 食育アドバイザー
執筆
たべもの食育図鑑,共著、群羊社
はじめての食育授業(小学校),共著,群羊社
早わかり食育図鑑(野菜編),共著,群羊社
早わかり食育図鑑(肉・魚編),共著,群羊社