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給食業界をとりまく環境変化~給食企業の今後

給食市場の概況

2020年度(2021年3月期)の給食市場は、2020年の春先から始まったコロナ禍により、事業所給食(対面、弁当)を中心に且つてない落ち込みを見せた。その後、2021年度に底を打ったものの、未だコロナ禍前の水準に戻っていない。
2022年度における給食総市場は、前年比102.3%、4兆6,189億円となった。ちなみに、コロナ禍の影響が最大化した2020年度は、同89.7%、4兆3,395億円まで急減した。

<給食の市場規模推移(2018~2022年度)>

(出所:矢野経済研究所推定)

給食の市場トレンドについて、事業所対面、弁当、病院、高齢者施設、学校、幼稚園・保育所ごとに概観する。
事業所対面給食は、アベノミクス以降の景気回復と“健康企業”を目指して従業員食堂を見直す動きなどを背景に回復したものの、コロナ禍の発生により、特に都心のオフィスでは在宅勤務が拡大したことで喫食者数が急減し、市場は過去に類を見ない落ち込みを見せた。しかし、2022年以降は、コロナ禍の収束に伴い、喫食者が食堂に戻り、現在はコロナ禍前に近付きつつある。
弁当給食の顧客は中小事業所が多いため、中食(惣菜)や外食などとの競争に晒され、利用が漸減傾向にあったが、事業所対面給食と同様に、コロナ禍で喫食者数が急減し市場は大幅に縮小したが、2022年以降は徐々に回復しつつある。なお、給食事業者の廃業や給食大手による小規模零細事業者の営業権買取は継続している。
病院給食は、病院数や病床稼働率が減少傾向にあるが、病院側の固定費削減の思惑等もあり外部委託率は微増している。受託事業者は委託率上昇に期待するが、1病院あたりの病床数あるいは病床稼動率の減少は運営効率を悪くしている。これまで、病院給食は伸びると考え、低価格や赤字受託を受け入れてきたが、収益を圧迫する状況となり、不採算受託や赤字受託を敬遠し、受託単価を見直している。なお、コロナ禍の影響は事業所給食より小さかったものの、入院患者の減少や院内レストランの休業などで苦戦したが、現在は回復傾向にある。
高齢者施設給食は、特養、老健の新設が減少するものの、比較的単価のとれる有料老人ホームの新設が活発である。コロナ禍でデイサービスやショートステイが一時休業したものの、市場は引き続きプラス成長している。
高齢者向けの在宅配食サービスは、厚生労働省の在宅医療拡充策にも関わらず、自治体の補助金は減額され、「横だしサービス」は採算が採りにくい状況にある。一方、民間サービスはその現象を補い、サービス提供エリアは都市部から地方へ拡大し、新規参入も続いている。また、コロナ禍の影響で、高齢者を中心に利用者が急増したが、コロナ禍の収束で伸び率は鈍化している。
学校給食は、少子化を背景に需要人口が減少傾向にあるものの、給食を提供していなかった自治体の中学校給食で完全給食が始まり、経費節減や食中毒防止を目的とした専門企業への民間委託が増加し、学校給食の民間委託率は上昇している。
幼稚園・保育所給食は、幼稚園給食においては元々、外部搬入、委託に規制はなかったが、保育所給食は現場調理を基本としており、「認定こども園」により幼保一体化が進み、保育所給食の外部委託が進んでいる。メディカル給食で培ったアレルギー食や嚥下食、食育や地産地消の知見を活かし、大手や専門の給食企業が保育所給食を受託している。
2022年度に4兆6,189億円となった給食市場であるが、コロナ禍の収束により、2023年度はプラス成長が予想されるものの、引き続きコロナ禍前の水準には戻らず、前年比101.2%の4兆6,743億円の市場規模を予測する。
2024年度以降は、アフターコロナの時代となるが、事業所では在宅勤務が選択肢の一つとなり、少子高齢化や人手不足は継続すると予想されることから、2027年度の給食市場規模はコロナ前に近い4兆7,850億円に回復すると予測する。

<給食の市場規模予測(2023~2027年度)>

給食市場の環境変化と市場への影響

コロナ禍が収束したことで、日本人の価値観や生活スタイルが変化しており、景気回復により企業の福利厚生も変化している。また、人口減少は少子高齢化と共に今後も進行する。
これらが給食市場にも影響を与えており、今後の給食市場を展望するにあたり、給食市場を取り巻く環境変化について取りまとめた。

<今後における給食市場の環境変化と市場への影響>

■ 在宅勤務が選択肢の一つとなり、事業所の喫食者は完全には戻らない
■ 高齢化の進行で、有料老人ホームなど民間高齢者施設が増加
■ 政府の施策から在宅高齢者が増加、配食サービスに期待
■ 少子化の継続で、学校や幼稚園・保育所の園児や児童は長期減少傾向
■ 食の外部化(外食と中食)で喫食者が分散
■ 簡便志向(ファストフード化)を背景に、栄養管理、栄養指導を重視
■ 有職主婦の増加(時短ニーズ)で完調品や冷凍食品が需要拡大
■ 単身者の増加(個食化、簡便化、栄養補給ニーズ)で個別栄養を重視
■ 健康志向・安全志向から、給食にも質を求める
■ 国産原料の評価が高まり、食材の見直しが進む
■ 宅配、通販の拡大で宅配サービスが限界に(2024年問題)
■ 高齢化による独居老人の増加で配食サービスは長期的に拡大
■ 生活習慣病の予防(低糖、低塩、低脂肪など)が給食の必須条件に
■ 給食では手づくり志向、出来立て志向への対応が限界に
■ 防災対策需要、非常食需要の拡大(BCP対策)
■ 新たな感染症の発生、パンデミックの再来に向けた危機対策
■ ドラッグストア、ホームセンターが重要チャネルに
■ 駅ナカ、駅ウエなど交通拠点の利用(宅配ロッカー)
■ インバウンドで外食、ホテルが回復、人手不足が拡大
■ 外国人(労働者、留学生)が増加、ハラルやコーシャに留意
■ 食のグローバル化と嗜好の多様化(海外メニューの導入)
■ 家計収入と家計支出の伸び悩みで、財布の紐は固くなる
■ 原材料供給のタイト化、原材料価格の高騰
■ 長期的な人手不足と人件費上昇

給食企業に求められる市場戦略

給食企業は様々な市場戦略、つまりは、差別化戦略、集中化戦略、ニッチ戦略、価格戦略など何れを採用しようとも、F/Lコスト(食材費と労務費)の効率化が利益の源泉であり、人手不足が続く中、最も力を入れる経営戦略である。
事業所対面給食をコア事業とする企業では、喫食者数の増加が見込みにくい状況下、周辺給食領域への拡大や既存事業の効率化が重要である。また、CKを保有する場合はその活用、オリジナル食材の開発、同業者とのアライアンスによる購買、地域密着によるドミナント展開、特定健診・特定保健指導に留意した健康管理メニュー対応、物流機能の見直し、人材(採用と育成)の強化、同業企業のM&A、給食以外の総合受託サービスの強化などが重要である。
給食の外部委託の進行状況と受託施設の新設により、メディカル給食の中の高齢者施設給食は今後も注目される。しかしそれが故、競争激化は必至であり、また、治療食などへの個別対応、新調理や院外調理による調理の効率化、栄養管理や購買システムの統合、医療・介護福祉の制度変更など、様々な要因が事業を左右する。特に病院数と病床数の減少が今後も予想される病院給食では、効率的なビジネスモデルの確立、利益の出る仕組み作りが求められる。
学校給食は民間委託の増加を背景に注目企業も多く、行政や保護者に安全・安心を訴えるためのISO認証取得、地産地消の食材調達、食育の推進などが重要である。また、老朽化した調理施設を集約し、学校給食センターを新設する自治体も多く、PFI事業の専門部署を設置することも差別化策となる。
待機児童解消から施設数の増加や喫食児童数の増加が期待できる保育所給食は、園外調理の制約が低くなったことから、これに注力する動きも目立っている。園児の保護者を対象に、“食育”を訴えることで、企業ポリシーの理解を深め、食事の質を上げ、保護者の顧客満足度を上げることが差別化策になる。
弁当給食のプラットフォーマーは、栄養管理やメニュー開発、食材の受発注、配送の効率化など蓄積データを使った事業の高付加価値化、DX化を推進しており、地場の給食会社のネットワーク化が注目される。
給食企業に限らず全てに共通するが、ヴィジョンを策定し目指す未来を描いている、意思決定が速く共通言語がある、全社員に経営数値が開示され数値目標が明確、時代に応じた評価制度を採用、収益性の高い事業に集中し成長市場に投資、安全性向上に向けHACCP認証を取得、女性や高齢者を活用し人財投資に積極的、収益確保に向けて価格改定、部門ごとの生産性を数値化、AIを積極的に活用し業務を効率化するなども重要である。
これまで給食企業は、収益性が低く人材投資に積極的ではないと言われてきたが、これを改善することで事業の未来は明るいものとなろう。

 

加藤 肇(かとう はじめ)
株式会社 矢野経済研究所
フードサイエンスユニット ニュートリショングループ 特別研究員

大学卒業後、食品メーカーと広告代理店を経て、1989年に矢野経済研究所に入社。食品産業、ヘルスケア産業、農業園芸産業、外食産業など、主に消費財分野を担当、現在は給食、臨床栄養、高齢者食品、パンなどのテーマ分野を担当。新規事業の事業化調査、販路開拓調査、中小企業支援、外資系企業の国内参入調査、各国大使館の日本市場開拓支援など、様々な調査・研究活動に携わる。また、中小企業育成支援事業、知的クラスター事業、経済産業省の特定産業支援事業(食文化産業の振興を通じた関西の活性化事業、フードサービス産業におけるスキル標準の策定と能力評価制度構築事業)などの公的研究テーマにも実績がある。

●直近の製作資料
<2022年版>給食市場の展望と戦略
<2022年版>嚥下食、咀嚼困難者食、介護予防食に関する市場実態と将来展望
<2022年版>介護食、高齢者食、病者食(特別食、調整食)の市場実態と展望
<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望
<2023年版>栄養剤、流動食、栄養補給食品(経口、経管)に関する市場動向調査

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