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給食業界をとりまく環境変化~給食コストの上昇

給食コストの上昇が給食会社の経営を圧迫

給食を提供するに当たり、安全・安心、栄養価、美味しさに加え、常に考慮しなければならないのは食材費と労務費(F/Lコスト)である。
2021年後半から徐々に上昇し始めた『給食コスト』は、2022年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、小麦や大豆など穀物、バターやチーズなど乳製品、鶏卵、それらを原料とする調味料や冷凍食品などの食材価格を急速に押し上げた。更に、円安などもあって原油や天然ガスなど燃料費が上昇、コロナ禍の規制緩和での求人増などを背景に、かつてない引上幅で最低賃金が上昇している。
特に、病院給食や学校給食など、受託単価が硬直的な給食サービスでは、コスト上昇分を価格に転嫁できず、給食受託会社がこれを負担する構図となっている。
2023年の給食受託企業の倒産は、全国的な規模の倒産もあって、テレビや新聞で取り上げられた。
この様に、給食の主要原価であるF/Lコストの上昇は、給食会社の経営を圧迫している。

主要原材料の価格推移

給食材料の内、パンや麺類などの原料となる小麦、揚げ物に使われ、マーガリンなどの原料となる植物油は、ここ数年価格が高騰している。
農林水産省は、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(平成6年法律第113号)第42条第2項」に基づき、2023年4月からの輸入小麦の政府売渡価格を直近6ヶ月間の平均買付価格を基に算定、5銘柄の加重平均で5.8%引き上げた。2022年のロシアによるウクライナ侵攻、円安などを受けて国際相場が急騰した。想定していた価格改定手法では13.1%の値上がりになったため、一時的な急騰を反映しない算定方式を採用することで二次加工食品の値上がりを抑制した。また、農林水産省は、2023年10月からの輸入小麦の政府売渡価格を直近6ヶ月間の平均買付価格を基に算定、5銘柄の加重平均(税込)で68,240円/t、11.1%の引下げとなった。

<輸入小麦の政府売り渡し価格の推移>

※政府売渡価格は5銘柄の加重平均
(出所:農林水産省)

 

小麦と同様に、給食材料の代表格が植物油である。
植物油の原料である油糧種子の価格は、ここ数年高騰しており、大豆や菜種は2020年後半から大幅に値上がりしている。価格高騰には、気候変動による不作、新型コロナウイルス感染症、ロシアのウクライナ侵攻、サステナビリティ対応によるコストアップ、バイオ燃料の需要増、停滞する土地や労働力の増加、新興国での人口増加に伴う需要拡大など、様々な要因がある。
国連食糧農業機関(FAO)は、植物油など主要5品目で構成される世界的食料価格指数(FFPI)を公表しているが、植物油が牽引する形でこれが上昇しており、2022年3月の251.8の高水準後は低下傾向にあるものの、その後も高止まりしている。

給食サービスの求人状況

厚生労働省の「一般職業紹介状況」によると、2021年11月から2023年11月における「飲食物調理の職業」(給食サービス)の有効求人倍率の推移を見ると、2022年10月までは概ね2.2~2.8倍程度で推移していたが、2022年11月から2023年2月までは3倍を超える倍率で推移した。2023年3月以降はやや落ち着き、2.7~2.9倍程度で推移している。
なお、「飲食物調理の職業」の有効求人倍率は、コロナ禍初期の2020年5月から2021年9月までは1倍台であった。新型コロナウイルス感染症拡大により、特に、事業所対面給食や学校給食で、在宅勤務や休校により多大な影響を受けた。しかし、2021年10月以降は徐々に有効求人倍率も2倍を超え、現在は新型コロナウイルス感染症の位置付けが「5類感染症」に変更され、喫食者数が回復した。

<業種別の求人倍率の推移>

(出所:厚生労働省)

病院、特養、老健における給食コストの分析

矢野経済研究所では、2023年4月~5月に、全国の病院、特養、老健を対象に食事サービスに関する郵送留置アンケート調査を実施し、91票の有効回答を得た。施設種類別では「病院」が39.6%(36票)、「特養」が34.1%(31票)、「老健」が26.4%(24票)の構成比となった。

食事の外部委託状況で「完全委託」「部分委託」と回答した61票を対象に外部委託した理由を聞いた。「人手不足と人件費高騰」が42.6%、「トータル管理費の削減(委託費が安い)」が37.7%、「関連職員の人件費削減」が31.1%と続いており、人件費対策を理由に外部委託した施設が多い。

(出所:㈱矢野経済研究所発刊「<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望」)

 

給食コスト(食材費、光熱費)について、2021年5月時点を100%とした場合の、2022年5月時点と2023年5月時点のコストを比較した。

『食材費』については、2022年5月時点では「影響はない(2021年5月時点と同じ)」が19.8%回答されたが、2021年よりもコストは上昇している。2023年5月時点も「影響はない」が8.8%回答されたものの、「プラス30%以上」との回答が7.7%あり、2021年よりもコストは上昇している。

(出所:㈱矢野経済研究所発刊「<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望」)

 

『光熱費』については、2022年5月時点では「プラス19~10%」が15.4%回答され、2021年よりもコストは上昇している。2023年5月時点では「プラス30%以上」との回答が13.2%あり、2021年よりもコストは上昇、2022年よりもかなりコストが上昇している。

(出所:㈱矢野経済研究所発刊「<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望」)

ソリューションを提案し、給食現場の課題を解決

ここまで記載した各種要因により、現在も給食コストは高止まりを続けている。
食材費の高騰は、世界的な食糧問題を背景に今後も継続すると思われる。
人件費についても、「少子高齢化」で、我が国の労働力人口は今後も減少が予想され、景気回復が進むアフターコロナの時代、人手不足は給食業界に大きな課題を投げ掛ける。
給食会社は、これらへのソリューションを提案し、給食現場の課題を解決することにより、新たなビジネスチャンスを生み出すことになる。

 

加藤 肇(かとう はじめ)
株式会社 矢野経済研究所
フードサイエンスユニット ニュートリショングループ 特別研究員

大学卒業後、食品メーカーと広告代理店を経て、1989年に矢野経済研究所に入社。食品産業、ヘルスケア産業、農業園芸産業、外食産業など、主に消費財分野を担当、現在は給食、臨床栄養、高齢者食品、パンなどのテーマ分野を担当。新規事業の事業化調査、販路開拓調査、中小企業支援、外資系企業の国内参入調査、各国大使館の日本市場開拓支援など、様々な調査・研究活動に携わる。また、中小企業育成支援事業、知的クラスター事業、経済産業省の特定産業支援事業(食文化産業の振興を通じた関西の活性化事業、フードサービス産業におけるスキル標準の策定と能力評価制度構築事業)などの公的研究テーマにも実績がある。

●直近の製作資料
<2022年版>給食市場の展望と戦略
<2022年版>嚥下食、咀嚼困難者食、介護予防食に関する市場実態と将来展望
<2022年版>介護食、高齢者食、病者食(特別食、調整食)の市場実態と展望
<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望
<2023年版>栄養剤、流動食、栄養補給食品(経口、経管)に関する市場動向調査

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