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栄養計算に「日本食品標準成分表」を使うコツ

はじめに

食品成分表の重要な役割は,食品を組み合わせた料理(加工食品)や食事などを評価するための「栄養計算」です。栄養計算は,料理や食事内容のエネルギーや栄養素量を算出する計算です。成分表は,食事を評価する「ものさし」と言えます。栄養計算の結果は,栄養成分表示として料理や食事に示されます。

料理や食事の正確なエネルギーや栄養素量は,その料理や食事の栄養素を測定すると明らかになりますが,時間と費用がかかります。そこで,「標準的な成分値が収載されている最新の食品成分表」を使って,栄養計算を行うことが合理的です。そのため,栄養計算結果は,体重を体重計で計るように,正確な値ではありません。しかし,適切な栄養計算を行えば,「正確な値に近い」と推察される値を得ることができます。そのポイント(コツ)を一緒に考えましょう。また,食品成分表を使うと,分かり易い食事アドバイスができるので,その点についてもお伝えします。

1.栄養計算のために,「最新の食品成分表を編集した成分表」と「その成分表を基に作成された栄養計算ソフト」を身近におきましょう!

時代とともに,多くの食品が変化していることにも対応し日本食品標準成分表は,改訂されてきました。そのため,最新の日本食品表標準成分表は,今,日本人が常用している食品を収載しています。栄養計算に最新版の食品成分表を利用することは,適切な栄養計算の基本事項です。

最新の成分表は,日本食品標準成分表(八訂)増補2023https://www.mext.go.jp/a_menu/syokuhinseibun/mext_00001.html

です。この成分表は冊子での販売を行っていませんし,栄養計算を行うためには編集が必要な成分表です。

そこで,栄養計算のためのツールとして,日本食品標準成分表(八訂)増補2023年を「栄養計算のために編集した食品成分表」と「編集した成分表を基に作成した栄養計算ソフト」を身近におくことが必要です。「栄養計算のために編集した食品成分表」と「編集した成分表を基に作成した栄養計算ソフト」は,セットで販売されているものもあります(事例:写真1)。書籍の成分表は,いずれもユーザーのために分かり易く編集され使いやすく,栄養計算ソフトも便利に利用できます。栄養士・管理栄養士の養成校や個人では,これらを利用すると便利です。

業務用の栄養計算ソフトは,日本食品標準成分表(八訂)増補2023年を栄養計算用に編集してあるかどうかを確認し導入しましょう。栄養計算のために編集した食品成分表を基に作成された業務用の栄養計算ソフトの事例を示しました(写真2)。

     

 

2.冊子の成分表を身近においてほしい理由

栄養計算ソフトでは,食品成分表の情報は,収載食品名と成分量のみです。食品成分表の備考欄には,食品名や収載値を補足する情報が記載されています(表1)。これらの情報は,献立作成や食事アドバイスに役立ちます。

表1.備考欄に記載されている主な事項

3.適切な栄養計算のコツ

3-1.調理に関する3つの重さ(質量)と食品の選択

調理に関する重さは3つあります(表2)。

栄養計算に使う質量は「調理後質量」,成分値は「調理後の成分値」です

調理後質量は,ユーザーが測定する必要はなく,レシピ質量に食品成分表の重量変化率の値を乗じて計算できます。女子栄養大出版部および建帛社の成分表では,重量変化率は成分項目に重量変化率を加えた編集を行っているので,調理後質量の計算が容易にできます。

3つの重さは,同じ食品でない場合があります。例えば,混合だしは,レシピおよび購入食品はカツオ節とこんぶ,調理後食品は,(カツオ節とこんぶでとった)混合だしです。白飯では,レシピおよび購入食品は精白米,調理後食品は飯です。栄養計算では,この食品の選択を間違わずに行うことが適切な栄養計算のために重要です。

3-2.栄養計算のための食品と重さを理解するための表

栄養計算に調理後食品を選択しその成分値を使うと,調理による成分の損失や増加を考慮した栄養計算ができ,実際の提供量に近い値になります。例えば,米でなく飯の値を!使いましょう。

調理後の重さは,上述したように成分表の調理による重量変化率の値を使って計算します。栄養計算のための重さを理解するための表(表3.Excelファイル)は, https://eiyo21.com/blog/fd_vol9/ ダウンロードできます。

3. 栄養計算のための重さを理解するための表

3.3.具体的な栄養計算のポイント

1)使用した食品と成分表の食品を一致させましょう

―細分化された食品を活用―

細分化した食品は,成分に相違がある場合がほとんどです。そこで,対応する食品を選択することが重要です。主な事例を記載します。

1-1. 調理した食品は調理後の食品を選択しましょう

 3-1.で記載したように,摂取したエネルギーや栄養素に近い値を計算するために,加熱調理した食品は,調理後の食品を選択しましょう。

 1-2.食パンとクロワッサン

成分表2023の食パンは9食品が収載されています(図1)。角形食パンは通常の食パン,焼きはトースト,耳を除いたものはサンドイッチ用,耳,リーンタイプはフランスパン生地の食パン,リッチタイプは高級食パン,山形食パンは,蓋をしない型で焼いたパンです。

クロワッサンは成分表2023では,2食品が収載されています。成分表2015で収載されていたクロワッサンは,リッチタイプ(パン専門店で販売されている商品),新規収載食品はレギュラータイプ(給食で利用,数個まとめて袋に入って販売されている商品)です。脂肪酸のトリアシルグルセロール当量,エネルギーは製品により相違があります。

発注し食べる食品(購入する商品)と栄養計算に使う食品を合致させましょう。

1.食パンおよびクロワッサンの脂肪酸のトリアシルグリセロール当量,食塩,エネルギー(/100g)

1-3.さけ・ます類のエネルギー量は品種により大きく異なります!

さけ・ます類の生は11食品が収載されています(図2)。アミノ酸組成によるたんぱく質は,16.218.9g(/100g)と相違の幅は少ないですが,脂肪酸のトリアシルグルセロール当量は3.715.7g(/100g),エネルギーは116223kcal/100g)と大きな相違があります。栄養計算に使った食品と発注した食品が合致していることは,とても重要です。

2. さけ・ます類のアミノ酸組成によるたんぱく質,脂肪酸のトリアシルグリセロール当量,エネルギー(/100g)

 

 

 

 

1)-4.柑橘類の薄皮(じょうのう膜)有無

柑橘類の薄皮を召し上がりますか?薄皮を摂取するかどうかで食物繊維や無機質量が異なります。温州みかんは,薄皮を摂取すると,食物繊維やカルシウムなどの摂取量が増加します(図3)。また,この図を使って,柑橘類の薄皮の食べ方について食事アドバイスができます。

3.うんしゅうみかん のじょうのうとさじょう(/100g)

1-5.「こしあん」と「つぶしあん」

あんこは,「こしあん」と「つぶしあん」,どちらがお好みですか。両者では,微量成分の含有量が違います。もなかと大福もちを比較すると,両者ともつぶしあん製品が食物繊維,カリウム,葉酸を多く含有していることがわかります(図4)。どちらでもよい場合は,つぶしあんを選択したほうが,栄養素の摂取としてはお得です。

また,柑橘類の薄皮の有無と同様に,この図を使って,あんこの選択についての食事アドバイスができます。

4.もなかと大福もちのあんこの相違(/100g)

2)オリジナル食品の成分値を計算し活用しましょう

2-1.常用する食品の廃棄率は各給食施設で測定した値を使いましょう

成分表の廃棄率は,10%以上では5刻みです。成分表の廃棄率で計算すると食材が余ったり,不足したりする場合があります。そこで,給食施設では,常用する食品の廃棄率を調査しその値を利用することをお勧めします。

最近,小玉西瓜の流通量が増加しています。小玉西瓜は大玉西瓜と比べ,廃棄部位が少なくなっています。このように,選択した食品の廃棄率が成分表と異なる場合は,ユーザーが気づいた時点で,廃棄率調査を行いその値を利用しましょう。

2-2.栄養成分表示の利用

食塩摂取量を減少させることは,日本人の健康課題の1つです。加工食品は,各社が努力しナトリウム量の減塩に取り組んでいます。そのため,成分表の収載値と利用する食品に乖離がある場合があります。食パンやクロワッサンの食塩相当量は,成分表2023では,1.11.3g(/100g)です(図1),常用している食パンやクロワッサンの値はこの値ですか?食塩相当量は,製品の表示の値を見て利用しましょう。

常用している醤油,味噌など食塩摂取の給源である基本の調味料の食塩相当量を正しく知っていることは,栄養計算にとって欠かせません。常用している商品の食塩相当量を表示で調べ,栄養計算に使いましょう。

また,加工食品では,酸化防止用にビタミンCを添加している商品などもあります。

常用する加工食品の栄養成分表示と成分表の収載値の相違を調べ,相違があれば,その成分は,商品の値を栄養計算に使いましょう。

2-3.部分割合から計算できる食品の計算

 クリームパン,チョコパン,ジャムパン,こしあんパン,つぶしあんぱん,ショートケーキなどは,常用する食品の成分量を計算できます。

例えば,クリームパンを,パンの部分とクリームの部分に分けて,計量し重量割合を算出します。パンの部分は,「菓子類:菓子パンあんなし」に,クリームの部分は,「菓子類;カスタードクリーム」に該当します。それぞれ,その成分値に重量割合を乗じ,合計すると100g当たりの成分値が計算できます。一方,「菓子類:菓子パンあんなし」と「菓子類;カスタードクリーム」の成分値に,各部分の質量を乗じ100で除し合計すると,クリームパン1個の成分値が計算できます。

2-4.だしの成分値の登録

成分表のだしは,抽出する水に対する食品の濃度が食品群別留意点や調理方法の概要表に記載されています。例えば,昆布だしは,昆布を3%使っています。使用する昆布が1%であれば,エネルギーおよび水分以外の各成分量は1/3です。そこで,各給食施設では,使用する昆布の量を使って独自の成分量を計算しましょう。

昆布に含まれるヨウ素は,食事摂取基準に耐容上限量が定められていますので,この計算は必要です。

3)水道水のカルシム量を加算しましょう

成分表の調理はイオン交換水で行っています。そこで,調理に用いた水道水に含まれるカルシウム量を加算することをお勧めします。成分表2020では,地域別の水道水のカルシウム量が収載されています(図5)。

5.水道水のカルシウム量(mg/100g)

4)調理済み流通食品類の成分値の活用

 調理済み流通食品類には,惣菜類は収載されています。ユーザーが完全調理品として購入した商品(市販の総菜)に栄養成分表示がない場合は,成分値の収載成分値を利用しましょう。ユーザーがレシピを用いて調理した食品は,栄養計算をします(惣菜の成分値は利用できません)。

調理済み流通食品類には,カレーおよびハンバーグが各3食品収載されています(図6)。図をみると,成分特性から喫食者にとって適切なカレーやハンバーグを選択することができます。そこで,この図を使って,カレーやハンバーグの選択についての食事アドバイスもできます。

 

5)栄養計算でこれまで行ってきた重要事項をチームとして確認し共有しましょう

 各給食チームや個々のユーザーは,この他にも,これまで行ってきた栄養計算における重要事項があると思います。それをチームとして確認し共有していきましょう。

6)栄養計算をより詳しく理解したい場合

 適切な栄養計算を行うことは,栄養士・管理栄養士の重要な仕事であり,栄養計算のスキルは大きな力になります。多彩な栄養計算ソフトが容易に手に入り,だれでも栄養計算ができそうですし実際に行っています。しかし,適切な栄養計算は,まず,成分表や栄養計算ソフトを選択するなど,栄養士・管理栄養士としての力が必要です。

栄養計算について詳しく理解したい場合は,

『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん 』https://www.kspub.co.jp/book/detail/5334362.html を,御覧ください。

ユーザーの皆様の栄養計算の課題が,ある程度解決できると思います。

4.栄養計算と合わせて行う大事なこと

―鮮度のよい食品を使い,おいしい料理作り,おいしそうに装いましょう―

食品成分表の成分値は,新鮮な食材の成分値です。鮮度の良い食材は,香り,味,栄養価が高い食材と言えます。鮮度の良い食材を使い,対象者にとって外観や味なども含めたおいしい料理を作り,おいしそうに装い,提供(商品化)することは,適切な栄養計算結果を食事として摂取してもらうための必須事項です。

喫食者にとって,美味しそうであることは「食べたい気持ち」を,美味しいことは「食べる意欲」を想起させます。栄養計算は,喫食者に完食してもらうことが前提の計算です。引き続き,喫食者のための美味しい食事を提供していきましょう。

おわりに

食品成分表の重要な役割である「栄養計算」について,そのポイント(コツ)を記載しました。文部科学省版の「最新の食品成分表」を「栄養計算のために編集した食品成分表」および「編集した成分表を基に作成した栄養計算ソフト」使うことが必須事項です。ついで,ここで記載した栄養計算のポイント(コツ)を踏まえて,適切な栄養計算を行えば,「正確な値に近い」エネルギーと栄養素量を知ることができます。合わせて,これまで通り鮮度の良い食材を使った美味しい食事を美味しそうに提供すると,喫食率の向上(栄養計算結果の完全摂取)につながります。また,食品成分表を使うと科学的根拠がある分かり易い食事アドバイスができるので,ぜひ,食品成分表をご活用ください。

 

渡邊 智子(わたなべ ともこ)
東京栄養食糧専門学校校長。博士(医学)。

千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。
千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。

文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。
著書に「食事設計と栄養・調理」(南江堂)。ちば型食生活実践ガイドブック(千葉県)。『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。現在,「女子栄養大出版部WEBマガ「食品成分表」連載中。栄養計算・栄養管理ソフト「EIBUN」((株)コーエイコンピューターシステム)の監修。

 

 

 

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