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加速するフードテックの潮流―食のDXが変える管理栄養士・栄養士の未来とは―

皆様、初めまして。株式会社東レ経営研究所の川野と申します。この度、フジ産業様より「AI、DXを活用した管理栄養士・栄養士の未来」というテーマでコラム執筆の機会をいただきました。これから4回に渡り、加速するフードテックの潮流をご紹介するとともに、管理栄養士・栄養士の観点から見た食の未来について考えていきたいと思います。

食のDX「フードテック」とは

この2-3年で、「フードテック」という言葉を頻繁に耳にするようになったかと思います。フードテックとは、食(フード)×テクノロジーを組み合わせた造語で、AIやIoT、ロボット、3Dプリンターなどの各種デジタル技術やバイオテクノロジーを食のサプライチェーンに導入することで、代替タンパク質や機能性食品など新しい食品や新しい生産・加工・調理法などを生み出す革新的なイノベーションです。
経済産業省は、フードテックを「サイエンスとエンジニアリングによる食のアップグレード 」と表現しており、フードテックとは食の持つ可能性を広げる、「食のDX(デジタルトランスフォーメーション)」ともいえます。

 

フードテックは成長産業

フードテックが注目される背景には、第一にその市場性が挙げられます。世界人口の拡大、経済発展などに伴い、食への需要は健康、安心・安全、高機能などをキーワードに量と質の面でニーズが多様化するとみられており、世界の食産業は飽和しない産業として高い成長が期待されています。さらに食産業はすそ野が広い産業であることから雇用面でのポテンシャルも大きいことも特徴に挙げられます。
フードテック分野への投資規模は2015年頃から米国や中国を中心に急増しており、市場規模は2025年までに700兆円まで成長するとの予測もあります 。また、世界最大級のテクノロジー見本市「CES2022」において、フードテックが新たな公式テーマとして採用されるなど、世界的に注目される新領域となっています。こうした市場性から、日本においても食品産業にとどまらず、サステナビリティやモビリティ、ヘルスケアといった切り口で異業種からもフードテック領域に参入しており、様々なスタートアップ企業も誕生しています。

 

食の社会課題解決のキーテクノロジー

そして第二の背景として、フードテックは新たな食体験などの価値を生み出すことに加え、食業界が抱える社会課題解決に向けたキーテクノロジーとしても期待されています。食に関連する社会課題として、貧困層の飢餓やタンパク質危機、食料安全保障、栄養の偏り、肥満・病気、食品ロス、家畜による温室効果ガスの排出、水産資源の乱獲など様々な課題を抱えています。さらには深刻さを増している少子高齢化による労働者不足や、感染対策としての非接触ニーズという新たな社会課題に対しても食業界は対応が迫られています。これらの社会課題の解決と対応するSDGs(持続可能な開発目標)の達成に向け、フードテックを通じた「持続可能な食料システムの構築」が求められているのです。

出所:筆者作成

食のサプライチェーンの各段階で取り組みが進行

具体的なフードテックの事例をご紹介します。まず生産から加工の過程では、植物性タンパク質や培養肉、昆虫食、藻由来タンパクといった代替タンパク質が代表例です。代替タンパク質は、細胞培養技術、味や食感の再現のため分子レベルでのデータ解析、3Dフードプリンタ―による設計など様々な先端テクノロジーを活用することから、フードテックの牽引役ともされています。その他にも、宇宙食、発酵、ゲノム編集、人が健康を維持するために必要な栄養素を全て含んだ完全栄養食、個人の健康データに応じた食のパーソナライズ化、陸上養殖、そして農作物生産に技術を掛け合わせたアグリテックなどがあります。
次に流通段階では、品質や鮮度を保持するパッケージ技術や食材の鮮度管理、トレーサビリティ、AIやIoTを用いた需給の最適化、フードシェアリングのプラットフォームに加え、宅配ロボットやドローンなどが挙げられます。コロナ禍において、フードデリバリーや移動型店舗といった新たな業態も広がっています。
外食や家庭での調理の段階においては、調理・配膳ロボットやIoTに接続したスマート家電などが商品化されています。巣ごもり需要で、食材を入れるだけで調理してくれる自動調理鍋の売れ行きが伸びたことは記憶に新しいかと思います。また、内蔵カメラや重量検知プレートで冷蔵庫内の食材管理を行い、買い忘れや食品ロスを防止するスマート冷蔵庫も商品化されています。最近では、専用アプリでIHヒーターと調理器具を連動し、動画付きレシピで調理をガイドしながら火加減や加熱時間を自動制御してくれる、米国生まれのスマートフライパン「Hestan Cue(ヘスタンキュー)」が「ガイアの夜明け」で紹介され、注目を集めています。
その他、まだ食べられるのに捨てられてしまう食品ロスや野菜の芯や魚の骨などの不可食部といった食品廃棄物を、エネルギーや食材、食品以外の材料などへ再資源化する取り組みもあります。
このように、食に関連するあらゆる領域でフードテックの取り組みが進行しているのです。

 

管理栄養士・栄養士の領域に関わるフードテックは多い

特に管理栄養士・栄養士の観点から、最も関連性が高いといえるのは、個人の嗜好や健康・遺伝データ、生活スタイルなどに合わせた食のパーソナライズ化や、AIによる献立レシピ、栄養管理アプリなどになるでしょう。しかし、そればかりではありません。これからの食は、健康、心身の幸福(ウェルビーイング)、利便性、人との繋がりなどをキーワードに、フードテックが新たな食のスタイル、ビジネスを生み出すと予想されます。
次回以降、管理栄養士・栄養士の観点からみる個別のフードテックの動向について詳しくご紹介したいと思います。

 

1.METI Journal ONLINE「経済産業省がなぜフードテックの旗を振るのか」(2021年2月)
2.田中宏隆、岡田亜希子、瀬川明秀著「フードテック革命」日経BP社(2020年7月)

 

 

川野茉莉子
株式会社 東レ経営研究所
産業経済調査部 シニアアナリスト

2008年京都大学大学院農学研究科修士課程修了後、東レ株式会社入社。2015年東レ経営研究所へ出向。2022年4月より現職。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。
調査・専門分野はフードテック、サーキュラーエコノミー、サステナビリティ。
2022年2月、京都大学ELP(エグゼクティブ・リーダーシップ・プログラム)短期集中講座「食と農」に登壇。
主なレポートに「フードテックが生み出すバイオエコノミーの新潮流」「加速する食のDX:フードテック~3Dフードプリンタ―が変える食の未来~」「期待が集まるスマート農業の新展開~増加する企業の農業参入とビジネス展望~」「サーキュラー・エコノミー時代のビジネス戦略」など。

 

 

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