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「日本食品標準成分表」は,食事摂取基準と,とっても仲良し

はじめに

食品成分表の重要な使命は,食事を評価するための栄養計算です。栄養計算は,その食事が喫食者にとって望ましい食事であるかどうかを判断するために,実施します。判断の基準は,食事摂取基準を基に作成された喫食者の給与目標量です。
食品成分表は各国が自国で常用されている食品について策定しているので,日本の食事の評価には,日本食品標準成分表を使います。一方,食事摂取基準は,各国が国民のために策定しているので,日本人は「日本人の食事摂取基準」を使います。
そこで,今回は,食品成分表を活用するために,食事を考える科学的根拠である日本人の食事摂取基準について栄養計算の関わりから記載します。

1. 食事を考える科学的根拠「食事摂取基準」は変化する(成長する)

日本人の食事摂取基準は,日本人 として平均的な体位の人を参照体位とし,性及び年齢区分別に,食事によるエネルギー及び各栄養素の摂取量について示したものです。5年ごとに改定されるので,2025年版がまもなく公表されると思います。
栄養学の進歩に伴い科学的根拠が変更されると,該当する栄養素等の食事摂取基準の値は変更されます。2025年版が公表されたら,改訂により変更になった栄養素等は,その理由を『「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書」』を読み確認してみましょう。なぜ,変更になったかを理解すると,献立作成も,喫食者への説明も納得して実施できます。

・食事摂取基準の参照体位(身長と体重)

表1に日本人の食事摂取基準(2020年版)の参照体位を示しました。赤字は,身長,体重の最大値です。男女とも,身長は18~49歳,体重は30~49歳が最大です。

表1. 参照体位(日本人の食事摂取基準(2020年版))

給食や中食などで,喫食者の体位,年齢,活動レベルがアセスメントできない場合は,この値を利用します。

・年齢区分別の推定エネルギー必要量

図1に,参照体位に対する,活動レベルⅡ(ふつう)の推定エネルギー必要量を示しました。推定エネルギー必要量の最大値は,男性16~17歳,女性12~14歳です。体位の大きさとエネルギー量の多さが一致していません。
例えば,45歳の両親,16歳の息子,12歳の娘の家族では,食事のエネルギー量は,息子(2800kcal),父(2700 kcal),娘(2400 kcal),母(2050 kcal)の順に小さくなっています。しかし,みかけの体位に応じて食事を摂取している場合が多そうです。仮にみかけの体位に応じて食べていると,母はBMIが大きくなりすぎ,息子や娘は,不足分をお菓子や甘い飲料で補うかも知れません。
そこで,表1と図1の関係を喫食者にお伝えすることも,栄養士・管理栄養士の大事な仕事の1つと考えます。

図1. 推定エネルギー必要量(日本人の食事摂取基準(2020年版))

・推定エネルギー必要量を計算してみよう

推定エネルギー必要量を算出するための計算式を式1.に記載しました。

式1.推定エネルギー必要量の計算式

千葉県では,食育ツールの1つとして,県民一人ひとりが推定エネルギー必要量を計算できるように,ちば型食生活食事実践ガイドブック概要版(グー・パー食生活ガイドブック)(https://www.pref.chiba.lg.jp/annou/shokuiku/guide-book.html#gaiyouban)をHPに掲載しています(写真1)。この内側のページでは,左上に,「食べることは楽しいこと」として,食べる楽しさを生涯続けるために自分にとっての望ましい食べ方がわかることが大切とし,中央の表の部分(写真2)で,推定エネルギー必要量の計算ツールを掲載しています。

出典:千葉県/グー・パー食生活ガイドブック概要版

では,推定エネルギー必要量を計算してみましょう。
基礎代謝基準値,身体活動レベル,エネルギー蓄積量は,それぞれ写真2の通りです。
基礎代謝基準値(写真2の表1)は,年齢と伴い 小さくなること(12~14歳は,1~2歳の半分程度,50歳以上は1/3程度)がわかります。エネルギー蓄積量(写真2の表4)は,18歳以上では 0kcalであることがわかります。

出典:千葉県/グー・パー食生活ガイドブック概要版

・推定エネルギー必要量と給食のエネルギー表示

喫食者は推定エネルギーを算出すると(わかると),食事のエネルギー表示が身近なものになり,給食に関心をもつようになります。また,中食やおやつ,外食のエネルギー表示も,意味をもつようになります。そこで,給食施設では,喫食者の推定エネルギー必要量が,計算できることを伝えましょう。
また,給食施設のエネルギーの給与目標量,それを設定した参照体位や身体活動レベルなどを掲示すると,喫食者がご自分の体位と比較し食事量や食事の選択を考える一助になります。
これのことは,給食の栄養計算結果であるエネルギー表示などへの感心を高め,栄養計算を使う食育につながります。

・エネルギー量の出入り

エネルギー量の出入りは,体重測定により喫食者が管理できる(起床排尿後がお勧め)ことも,ぜひ伝えましょう。栄養士・管理栄養士は,食事のエネルギー量は表示できますが,喫食者の消費エネルギー量の把握はできないことも伝えましょう。
健やかな毎日のために体重計は必須アイテムです。体重計を食堂に設置し(目盛りは本人以外見えない工夫をして),自由にご利用いただく(服装のおおよその重さを掲示し引き算してもらう)ことも,一考です。
エネルギー量は一定なのに,体重が増加する場合,減少する場合についても,その考えられる理由や対応をお伝えしましょう。大きくなりすぎてから,体重を落とすのはなかなか困難です。

おわりに

食品成分表の重要な使命である栄養計算は,食事摂取基準に基づく給与目標量を目指して行います。そこで,食事摂取基準について,栄養計算との関わりからエネルギーについて記載しました。喫食者に,個別の推定エネルギー必要量を知ってもらい,食事量との関係を理解していただくことは,栄養計算結果の活用にもつながります。

 

渡邊 智子(わたなべ ともこ)
東京栄養食糧専門学校校長。博士(医学)。

千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。
千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。

文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。
著書に「食事設計と栄養・調理」(南江堂)。ちば型食生活実践ガイドブック(千葉県)。『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。現在,「女子栄養大出版部WEBマガ「食品成分表」連載中。栄養計算・栄養管理ソフト「EIBUN」((株)コーエイコンピューターシステム)の監修。

 

 

 

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