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おいしい食をすべての人に/第3回「これも和食? 地域の食も楽しんでもらいたい」
2026.09.11
コラム
投稿者:田中 章雄
各地に旅行に行くときの楽しみは、なんといっても食。旅館やホテル、地域の老舗料理店などで出される地域の食材をふんだんに使い、伝統的な味や調理法で作られた料理は、旅の楽しさを一層際立たせるものになるのは間違いありません。
他にも、ご当地グルメや食べ歩き、食のイベント、行列のできる人気店、地域の食に関連したお土産品などもあります。私も仕事関係で全国各地をよく訪問しますが、例えば好物のそば一つをとってみても、地域によってだしの取り方、具、食べ方もそれぞれですから、その地域ならではのそばを食べるのが出張の楽しみの一つになっています(もちろん、同じ地域でも店によって味は異なります)。
いま、外国人観光客(インバウンド)が急増し、寿司やラーメンなどを絶賛しているという話は多方面から聞こえてきていますが、こうした全国各地の料理の魅力については、まだまだ十分に知られているとは言えないでしょう。だからこそ、ぜひ多くの人に知ってもらいたいと思います。
(ジンギスカンは「ジンギスカン鍋」で羊などの肉や野菜を焼く料理方法で、北海道発祥の料理)
ところで、日本各地で料理の種類や味が異なる理由について、みなさんは考えたことがありますか?
実は、日本各地の味つけや調理方法の特徴は、その地域の気候や、そこでとれる農水産物と深い関係があります。
例えば北海道の食文化の最大の特徴は、豊かな自然環境とそこで育った「多彩で豊富な食材」と、アイヌ民族から伝わる食文化に、全国から集まった「開拓民」が持ち込んだ食文化とによって生まれた「独自の混ざり合う文化」が根底にあります。
東北地方は、寒さの厳しい冬に食糧を確保するため、乾燥、発酵など保存性を高める調理法が進んでいます。東北地方では味が濃いめの料理が多いのは、塩分が強めのほうが保存性が高まるからと言われています。また、体を温めるために鍋料理や汁物(三平汁やいも煮など)が豊富であることも特徴です。ちなみに、寒さを活用した加工品として「凍み豆腐」や「いぶりがっこ」などの名産品もあります。
関東地方はせっかちな江戸っ子向けにつくられた江戸前寿司、そば(そばぎり)などが、いまでは日本を代表する料理になっているものが少なくありません。その一方で、小麦の大産地であった埼玉県ではうどんを使った料理が各地に定着しており、神奈川県では異国文化の影響を受け、アイスクリンやあんぱんなど、「日本発祥」とされる料理や食品が多いようです。
そして千葉や茨城は太平洋の海の幸を使った料理が豊富で、北関東は東北や甲信越と江戸とをつなぐ結節点として独特な食文化が定着しています。

(こなもん文化の代表的なたこ焼きは、かつてはたくわんやこんにゃくなど他の具を入れた料理「ラジオ焼き」の一つだった)
近畿地方の京都では季節の移ろいや風情を繊細に表現する京料理や、仏教の教えに基づく精進料理が発展しています。また、若狭、淡路、伊勢などの「御食国」(みけつくに)より京の都に海の幸、山の幸を運ぶのに整備された「食の街道」に沿った独特の食文化が各地に残っているのも特徴です。
一方で、大阪にたこ焼きやお好み焼きなどの「こなもん文化」が定着しているのは有名ですが、その一方でてっちり(ふぐ鍋)やバッテラ(〆鯖寿司)、ハリハリ鍋(鯨と水菜の鍋)など独特な名前の郷土料理もあります。
北陸や東海など、中部地方は関東と近畿の食文化が交差する立地から、実に多様性のある食文化が生まれています。
北陸は日本海の豊かな海産物を使った料理が豊富である一方、甲信地方は山菜やキノコ、川魚などの山の幸を使った料理が多いのが特徴です。そして東海地方は大豆と塩を原料に長期熟成させる赤味噌や発酵食文化を基本とした、濃厚でコクのある味わいが多く、その一部は「名古屋めし」として定着しているようです。
中四国地方は、温暖で豊かな瀬戸内海に面した「瀬戸内海沿岸」と、雪が多く日本海の荒波に面した「山陰地方」、そして土佐など四国の「太平洋沿岸」によって食文化が大きく異なっています。しかも、山口県や愛媛県など、県内でも複数の異なる食文化が融合している地域も少なくありません。
こうした中で、それぞれの海でとれる魚介類を使った、地域特有の料理も数多いのが特徴です。また、鳥取県のらっきょう、香川県のうどん、高知県のかつお、山口県のふぐ、広島県のかきなど、その地の特産品を使った料理が多いのも特徴的です。
(シュガーロードと呼ばれた長崎街道の沿線にある砂糖文化の一つが小城羊羹)
九州地方の食文化は、周囲を日本海、東シナ海、太平洋、瀬戸内海という4つの異なる海に囲まれていることから、地域によって多様な食材に恵まれ、多様な食文化が育っています。しかも、朝鮮半島、中国大陸、南方諸国からの食文化も伝わり、九州の中でも特徴的な食文化が育っています。
その中でも、長崎から佐賀、福岡、小倉、瀬戸内海を経て京都にまでつながる「シュガーロード」沿いには、砂糖を使った料理や菓子などが誕生し、いまなお受け継がれています。
こうした地域性と歴史、文化が融合して生まれた全国各地の食を味わうような食文化旅行を多くの方に体験してもらうことが、地域活性化や地域の食文化を守り、発展させていくには不可欠なのです。
特に、若い世代の男女や、日本を訪れる外国人(インバウンド)にも、地域を訪れ、その地域の食を味わい、知ってもらうことによって、その持続的な発展につながるのは間違いありません。
「おいしい食を、すべての人に」
これは、ベジタリアンやハラルなど食文化上の規範や食の制約に対応していくことだけが目的ではなく、日本中にある多様な食をもっと多くの人に知ってもらいたい、という取り組みなのです。

一般社団法人日本フードバリアフリー協会 代表理事
株式会社ブランド総合研究所 代表取締役
1959年福井県生まれ、東京工業大学理学部卒業。
日経BP社で雑誌記者、新雑誌・新事業開発を約20年間担当。日本ブランド戦略研究所社長を経て、2005年にブランド総合研究所を設立し、代表取締役社長に就任。
2008年に地域ブランドおよび地域団体商標の普及・啓蒙活動により「知財功労賞経済産業大臣表彰」を受賞。2011年にギネス世界記録地域活性化委員会副委員長、2012年9月に一般社団法人ハラル・ジャパン協会副理事長、2017年食農体験ネットワーク協議会代表、2019年一般社団法人日本フードバリアフリー協会理事長に就任。2020年都道府県アンテナショップ研究会代表に就任。
地域ブランドの提唱者および第一人者として、毎年100箇所で地域ブランドや地域活性化についての講演・セミナーを実施している。日本テレビの人気テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」、「世界一受けたい授業」などのコメンテーターとしてもおなじみ。
また、2016年5月の伊勢志摩サミットにおいて、伊勢の広報統括アドバイザーに就任するなど、シティプロモーションの専門家でもある。
全国の自治体の評価調査「地域ブランド調査」を開発・実施。地域ブランドアドバイザーや、地域ブランドコンサルタント、食農連携コーディネーター、「地域ブランドNEWS」編集主幹などを通して各地のブランド戦略に取り組んでいる。