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【給食調理における人材養成・人材開発~調理動作研究より~】1)「給食調理における調理科学」-調理科学はおいしさの科学-

食べ物の重要な要素であるおいしさについて、考えてみましょう。食べ物のおいしさに関与する要因を図1に示しました。その中で食べ物の持つ特性は「化学的特性」、「物理的特性」に分けられます。化学的要因は味とにおい、物理的要因は外観、テクスチャー、温度および音を指します。今回の特集では、味とかかわりの深い調味の方法についてです。

調理の基本である「さしすせそ」とは、食品に調味するときは、調味料にあった使い方が重要です。調理をする上で、調味料は欠かせません。調理によっては複数の調味料を使用しますが、その際には一般的に「さ(砂糖)」、「し()」「す()」「せ(しょうゆ、昔の書き方だとせうゆ)」「そ(みそ)」の順に加えるといわれています。この、「さしすせそ」の順番の通りに調味料を入れていくと、料理を美味しく味付けできるとされているのです。この順番は、分子の大きさによって効率的に味つけができるようになっており、昔の人たちの知恵は科学的に理にかなっていたということになります。

さ」砂糖

砂糖の分子量は342.2と塩(分子量58.5)と比べて約6倍と大きく、塩と比べて食材にしみこみにくくなります。しかし、砂糖には食材をやわらかくする特性をもっていますので、1番最初に入れるのがお勧めになります。さらに、図2に示すとおり、砂糖には、そのほか食材の水分を保つ特性(保水性)もあることから、食材の乾燥も防いでくれます。また、料理にツヤを出すという効果もあります。砂糖にはいくつか種類があり、上白糖やグラニュー糖、三温糖、黒糖など、結晶の大きさや風味が異なります。世界的にはグラニュー糖が主流で、上白糖は実は日本でしか使われていません。料理、お菓子、飲み物等、用途によって砂糖の種類が変わります。

「し」塩

塩は砂糖と比べて分子が小さく、食材に早くしみこみやすいです。また、食材から水分を外に出して引きしめる働きがあるので、塩を入れるタイミングはお砂糖を入れた後がよいでしょう。野菜や果物の変色を防いで鮮やかな色にしたり、肉や魚などの生鮮品の身を引き締めたりする目的でも使うことができます。また、食材の水分を外に出す効果があるため、昔から保存食を作る為に使用されてきました(3)

砂糖と塩の調味の順番ついて、砂糖を「石ころ」、塩を「砂」に例えて考えてみましょう。空っぽのバケツに大きな石をいっぱい入れた後でも細かい砂を隙間すきまにまんべんなく入れることができます。けれども、先に砂をいっぱい入れたバケツには大きな石は入りません。同じ原理で、分子の小さい塩を先に入れてしまうと、分子の大きい砂糖が入りこむ隙間すきまがなくなってしまうということになります。

「す」酢

原料によって様々な種類があります。日本農林規格の分類では、醸造酢と合成酢に分けられ、醸造酢からさらに分類されて、小麦やとうもろこしなどを原料とした穀物酢、米を原料とした米酢、果物を原料としたリンゴ酢やみかん酢など原材料や生まれる過程が異なる酢が多くあります。風味や香りを大切にしたい調味料。風味や香りは加熱時間が長いと失われてしまうので、できるだけ料理の最後のほうに加えると風味や香りを残すことができます(4)

「せ」しょう

醤油も、酢と同じく風味が飛ばないよう、味付けの後半に入れることが多いです。醤油は大豆・小麦・食塩を発酵させて作った発酵調味料で、うま味があり、食材の生臭さを消す効果もあります。

「そ」みそ

味噌も、酢と醤油と同じく風味を生かすために後半に入れます。味噌は大豆と塩に麹を混ぜ、発酵させて作られる発酵調味料で、全国各地で様々な味噌が作られていますが、使う麹の種類によって米味噌󠄀・麦味噌󠄀・豆味噌󠄀3種類に分類されます。

まとめ

調理の基本の調味料「さしすせそ」について解説してきました。料理によっては例外もありますが、「さしすせそ」の順番を守って調理をすると、食材の味の染み込みが良くなり、おいしく味付けすることができます。一口に砂糖・塩・酢・醤油・味噌といっても、様々な種類があり、料理によって適切な調味料を選ぶことで、よりおいしい料理になります。その中で、酢、醤油、味噌は、風味や香りを大切にしたい調味料です。風味や香りは加熱時間が長いと失われてしまうので、できるだけ料理の最後のほうに加えると風味や香りを残すことができます。よく味噌汁を作るときに「沸騰させない方がよい」といわれていますが、味噌の香りは90℃以上になると揮発してしまうため、味噌を入れた後は煮立てないようにします。

調理の際に加える順番について、調味料は、基本的に砂糖から順番通りに入れていきますが、料理によっては例外もあります。酢の酸味を生かしたい料理の場合は最後に入れたり、食材を柔らかく煮る場合は最初に加えたりします。味噌も、八丁味噌の場合は煮込んだ方が美味しくなる等、必ずしも「さしすせそ」の順番にはならないことがあります。

また、調味料を添加する時期は、食品の脱水および吸水に影響します。きゅうりの塩もみ、りんごジャムなどはあらかじめ塩や砂糖を加えて脱水を促します。一方、サラダにドレッシングをかけるときやほうれん草を胡麻和えの和え衣で和えるときは、食べる直前に和えて脱水を防ぎます。炊き込みご飯では、一般に調味料は米の吸水を妨げるので、浸漬後の炊飯直前に加えます。

食品に調味するときは、調味料にあった使い方が重要です。調理をする上で、調味料の特性、加える順番、添加する時期を理解し、美味しい食事づくりに繋げていきましょう。

次回は、人の動き(調理動作)「作業工程」についてお話しさせていただきたいと思います。

〈参考資料〉
1)山崎清子 他:「調理と理論」,同文書院
2)松本仲子:「調理の基本 まるわかり便利帳」,女子栄養大学出版部
3)一般社団法人全国栄養士養成施設協会, 公益社団法人日本栄養士会他:
「給食経営管理論 第12版 (サクセス管理栄養士・栄養士養成講座)」,第一出版
4)渋川祥子 他:「エスカベーシック 食べ物と健康-調理学-」,同文書院
5)杉田浩一:「『こつ』の科学」,柴田書店

中島 君恵(なかじま きみえ)

桐生大学医療保健学部栄養学科 准教授

 

専門:調理科学

女子栄養大学栄養学部卒業後、大和製罐株式会社 総合研究所、桐生短期大学勤務。

1998年に復職し2025年から現職。

管理栄養士。修士(生活学)

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