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給食業界をとりまく環境変化~人口減少と少子高齢化

我が国の給食業界を見通す上で、避けて通れないのが「人口減少」と「少子高齢化」である。
我が国では、結婚年齢の上昇(晩婚化)と出産年齢の上昇(晩産化)に伴い、少子化と人口減少が進行している。一方で、65歳以上の高齢者、特に75歳以上の後期高齢者が増加している。
我が国の人口推移と予測、高齢者や単身者の増加、就業者人口や賃金上昇など、給食業界の市場規模を予測し、そこで働く従業者に大きく関わる各種数値について見ることにする。
我が国では、2006年をピークに人口減少が続いており、2060年には我が国の総人口は1億人を下回り9,615万人となり、その後も減少が続き、2070年には8,700万人になると予測されている(国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」)。特に若年労働者の減少が進み、日本人の「胃袋の数と大きさ」、そして給食業界を支える就業者人口に影響を与える。
2022年10月1日時点の65歳以上の高齢者数は3,623万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は29.0%で過去最高を更新した(総務省統計局「日本の推計人口」)。我が国の65歳以上の人口は、1950年には総人口の5%に満たなかったが、その後も急速に後高齢化が進行し、現在の高齢化率は30%に迫っている。この流れを強めているのが、第二次世界大戦後の1947~1949年に生まれた「団塊世代(第一次ベビーブーマー)」の全員が2025年に後期高齢者となる「2025年問題」である。

<日本の人口構成比の推移と予測>

※2025年から予測値
(出所:国立社会保障・人口問題研究所)

 

コロナ禍の数年を除き、男女ともに日本人の平均寿命は延び続けており、世界でも類を見ない高齢社会が到来している。前出の「日本の将来推計人口」によると、日本人の平均寿命は、2065年には男性84.95年、女性91.35年となり、女性の平均寿命は90年を超えることになる。
我が国では、1世帯あたりの人数が減る「小世帯化」が進行している。2022年6月現在、全国の世帯総数は5,431万世帯で、1世帯あたりの人数(世帯人員)は2.25人で減少傾向が続いている。この人数は、夫婦プラス子どもが1人居るか居ないかの人数規模であり、先述した「少子化」の影響も大きい。
世帯の種類を見ると、「単独(単身)世帯」が1,785 万2,000世帯(全体の32.9%)で最も多く、次いで「夫婦と未婚の子のみの世帯」が1,402万2,000世帯(同25.8%)、「夫婦のみの世帯」が1,333万世帯(同24.5%)となっている。また、世帯主が65歳以上の「高齢者世帯」は1,693 万1,000世帯(同31.2%)で、「高齢化」を背景に増加傾向にある。今後も高齢者の単身世帯の増加が予測され、2040年には33.1%にまで増加し、高齢者の一人暮らしが増加すると予測されている。一人暮らしの高齢者は、買い物や炊事を敬遠する傾向にあり、栄養管理の必要性も高まり、食事提供サービスへのニーズが拡大すると予想される。
「令和3年経済センサス活動調査」によると、2021年における国内の事業所数は5,078,617ヶ所で、事業所数は漸減傾向にある。
これを2012年と比較すると、卸売業、小売業で2.1ポイント、宿泊業、飲食サービス業で1.7ポイント、製造業で1.0ポイント、生活関連サービス業、娯楽業で0.4ポイント、建設業で0.1ポイント減少した。一方、医療、福祉で2.5ポイント、学術研究、専門・技術サービス業で0.9ポイント、サービス業で0.6ポイント、不動産業、物品賃貸業で0.4ポイント、農林漁業と情報通信業で0.3ポイント、教育・学習支援業で0.2ポイント、電気・ガス・熱供給・水道業で0.1ポイント増加した。日本国内の長期トレンドと同様、産業構造のサービス産業化が進んでいる。
国内の事業所数の増減が給食市場に影響を与えている。大型工場や大規模店舗の従業員向けに提供される事業所対面給食、中小企業の従業員や建設現場の作業員向けに提供される弁当給食が苦戦する一方、高齢化を背景に高齢者施設向けの給食が増加している。

<産業大類別事業所数の推移>

(出所:総務省統計局「経済センサス」活動調査)

 

総務省の「労働力調査」によると、2022年平均の完全実業率は2.6%と前年を0.2ポイント下回り、4年ぶりに低下し、コロナ禍の緩和を受けて雇用状況は改善している。また、2022年平均の有効求人倍率は1.28倍で、前年を0.15ポイント上回った。コロナ禍からの経済活動再開に伴い求人が増えた。

<完全失業率と有効求人倍率の推移>

(出所:完全失業率は総務省「労働力調査」、有効求人倍率は厚生労働省「一般職業紹介状況」)

 

2022年には、最低賃金が全国平均で31円引き上げられ、引き上げ率は過去最大の3.3%を記録、地域別最低賃金の全国平均は約961円となった。また、2023年度には、全国加重平均の最低賃金が41円(4.3%)引き上げられる見通しで、全国平均で1,002円となり、初めて1,000円を超える。人手不足を背景に、今後さらなる賃金上昇が見込まれる。

<最低賃金の推移>

(出所:厚生労働省)

 

賃金の上昇と並行して、ロシアによるウクライナ侵攻、長期化する円安や原油高を背景とした物価高騰などもあり、給食の原価は高騰し続けている。
「少子高齢化」を背景に、我が国における労働力人口は今後減少が続き、景気回復が進むアフターコロナの時代に、人手不足は給食業界に大きな課題を投掛けると同時に、これへのソリューションを提案することで新たなビジネスチャンスを生み出している。

 

加藤 肇(かとう はじめ)
株式会社 矢野経済研究所
フードサイエンスユニット ニュートリショングループ 特別研究員

大学卒業後、食品メーカーと広告代理店を経て、1989年に矢野経済研究所に入社。食品産業、ヘルスケア産業、農業園芸産業、外食産業など、主に消費財分野を担当、現在は給食、臨床栄養、高齢者食品、パンなどのテーマ分野を担当。新規事業の事業化調査、販路開拓調査、中小企業支援、外資系企業の国内参入調査、各国大使館の日本市場開拓支援など、様々な調査・研究活動に携わる。また、中小企業育成支援事業、知的クラスター事業、経済産業省の特定産業支援事業(食文化産業の振興を通じた関西の活性化事業、フードサービス産業におけるスキル標準の策定と能力評価制度構築事業)などの公的研究テーマにも実績がある。

●直近の製作資料
<2022年版>給食市場の展望と戦略
<2022年版>嚥下食、咀嚼困難者食、介護予防食に関する市場実態と将来展望
<2022年版>介護食、高齢者食、病者食(特別食、調整食)の市場実態と展望
<2023年版>メディカル給食、在宅配食の市場展望
<2023年版>栄養剤、流動食、栄養補給食品(経口、経管)に関する市場動向調査

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