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健康寿命延伸に向けた食環境整備 とは ~スマートミール知っていますか?~

スマートミール知っていますか?

私が勤務する女子栄養大学には学生食堂があります。学生と教職員を対象とした昼食時に営業されています。直営で運営しており、管理栄養士も配置されています。毎日2種類の日替わりの定食が提供されており、小鉢は自由に選んで組み合わせることができます。管理栄養士がおすすめする小鉢を組み合わせた場合に“スマートミール”の基準に合うようになっており、毎日必ず1種類は必ずスマートミールの基準に沿う食事が提供されています。日によってはどう組み合わせても、すべてがスマートミールになる日もあります。このように毎日スマートミールを提供している学生食堂として、「健康な食事・食環境」の認証を受けています。“スマートミール”とはなんでしょうか?皆さんご存じですか?

食環境整備の推進の取り組み

令和69月に公表された日本の令和5年度の医療費は、概算で473000億円となり、3年連続で過去最高を更新しています。令和4年度から13000億円、率にして2.9%増加しています1)。こうした中で健康寿命の延伸は,保健医療の分野を超え,経済政策の面からも社会の喫緊の課題と言えます。

健康寿命の延伸に向けて、健康経営の推進や、誰もが自然と健康になれる食環境を整備するなど、様々な取り組みがされています。その一つに「健康な食事・食環境認証制度」事業があります。この事業は、日本人の食料消費(最終飲食費)の約8割が加工品と外食であることから,外食や中食でも健康に資する食事選択ができる商品を増やし,適切な情報提供を積極的に整える必要があること、さらには企業が進める健康経営を食生活の面から応援するという考えに基づいて、2018年にスタートしました。この事業の運営は、生活習慣病関連の10学術団体と1「健康経営」推進団体でつくられた一般社団法人健康な食事・食環境コンソーシアムが行っています2)

健康な食事とは

「健康な食事・食環境認証制度」における健康な食事とは、一食の中で,主食・主菜・副菜が揃い,野菜がたっぷりで食塩のとり過ぎにも配慮した食事と定義しています。健康な食事というと、薄味で美味しくないといったことをイメージし、敬遠されがちです。栄養のバランスが整っているだけでなく、美味しく楽しく食べられる食事をイメージできるように、通称を「スマートミール®(略称スマミル)」としています。美味しく楽しく食べられて、満足でき、そして健康になれる食事の提供を目指しています。また、栄養バランスという点からは「ちゃんと」と「しっかり」の2つの基準を定めています。

健康な環境とは

健康的な食事を提供する際には、その環境、すなわち空間も健康的であることが重要です。具体的には、食事の提供とともに正しく、日常生活で活かせる栄養情報が提供されていることや、受動喫煙防止等に取り組んでいる環境が整っていることです。

この認証制度の特徴は、食事を認証するのではなく、健康な食事を健康な環境で提供している店舗や事業者に対して行われるところにあります。認証事業者は20248月現在、外食102、中食85、事業所給食361、合計548です。全国展開している事業者では複数の店舗で提供しているため、提供店舗数は約17,150店舗になります。

“スマートミール”と認証の基準

スマートミールの基準には、「ちゃんと」と「しっかり」の2つの基準があります。この基準は外食・中食・事業所給食いずれにも該当します。厚生労働省の「生活習慣病予防その他の健康増進を目的として提供する食事の目安」(平成 27 年9月)を基本とし、日本人の食事摂取基準や健康な食事に関する研究結果(エビデンス)も参考にして作成されました。

また「健康な食事・食環境」としての認証基準には必須項目とオプション項目があります。必須項目はスマートミールの基準を満たす食事を提供していることを含め7つの項目が設定されています。この必須項目を満たす場合に星1個として認証されます。オプション項目は19あり、このうち5項目を満たすと星2つ、10項目以上満たすと星3つがあり、それぞれ取り組みを段階的に向上させられる仕組みになっています。2年に1回の更新をしていただいていますので、1回認証されても、食環境をさらに良くして星の数を増やす取り組みをしてもらえるようにしています。

食事の基準や認証のための項目に関する根拠資料は「健康な食事・食環境」認証制度のホームページで公開され、科学的な根拠について知ることができます。

さらなる事業の推進に向けての課題

現在、認証事業者は全国にあります。外食、中食、給食と分けてみると必ずしもすべての分類において全国で認証されてはいません。残念ながら誰もが身近なところでスマートミールにアクセスできるという状況には至っていません。また外食、中食、給食いずれも店舗や事業者ではスマートミールだけが提供・販売されているわけではありません。環境が整っていても、複数の選択肢の中からスマートミールが選ばれなければ健康にはつながりません。より魅力的で食べてみたいと思う商品や食事、また食べたいと思う商品や食事の開発も重要です。そしてスマートミールの認知度をもっと上げていくことも必要です。

ホームページでは、認証店舗、事業所を公開、紹介しています。身近なところで利用できる店舗があれば、是非利用してみてください。

 1)厚生労働省 令和5年度 医療費の動向https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_43263.html (アクセス日2024103日)

2)一般社団法人健康な食事・食環境コンソーシアム https://smartmeal.jp/ (アクセス日2024103日)

 

石田 裕美(いしだ ひろみ)
女子栄養大学 栄養学部長

学歴
昭和58年3月 女子栄養大学 卒業(管理栄養士)
昭和60年3月 女子栄養大学大学院修士課程修了
平成4年3月 女子栄養大学大学院博士後期課程修了 博士(栄養学)

職歴
昭和60年4月 女子栄養大学 助手
平成 7年4月  同      専任講師
平成11年4月  同      助教授
平成17年4月  同      教授 現在に至る

学会・社会活動
日本給食経営管理学会理事長
日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会構成員

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