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人生100年時代、Well-being を目指して

健康寿命の延伸で人生100年時代

長寿国の日本、ある海外での研究報告では、「日本では、2007年に生まれた子どもの半数が107歳より長く生きる」と推計されています。2007年生まれとは現在の高校生です。100年という長い年月を、どう生きるか、一人ひとりが、また家族で、そして社会で考えていくことが求められています。

日本の人口構造の変化からみる課題

こうした中で、日本の人口は減少しています。戦後増加していた人口は、2008年の12,808万人をピークに減少に転じています。寿命が延び、高齢者人口が増える一方で、若者の人口が減少していることになります。その背景には出生率の低下があります。出生率は正確には合計特殊出生率といい、15歳から49歳の女性の年齢別出生率から求めており、1人の女性がその年齢別出生率で一生の間に生むとしたときの子どもの数に相当します。この値が減少を続けており、2023年は1.20となり、この統計を取り始めて以降、最も低い値となっています。人生100年時代の日本は、生まれてくる子どもの数は減少、寿命がのび高齢者は増えるという構造になっています。中高年死亡率の改善によって長寿が達成された反面、出生率の低下は続いています。

図は1965年と2025年の人口ピラミッドです1)。グラフの横棒がその年齢の人口の多さを表しています。1965年はピラミッド(三角形)型に近い形をしていました。2025年の推計のものは三角形ではなく、釣鐘のような形になっており、さらに今後はつぼのような形に変化していくと推計されています。働き手である生産年齢人口(15歳~64歳)、その中でも若い世代が減少していることがわかります。生産年齢人口が減少するということは、少ない人数で、暮らしや社会を支えていかないとならないことを意味します。

子どもの出生率が低下し続ける要因の一つに、長時間労働が挙げられています。女性だけの問題ではなく、男性も含めての問題です。生活の中で仕事に割く時間が長く、家庭で過ごしたり、子育てをしたりするための時間の確保のしにくさ、経済的なゆとり等が関係していると考えられます、働き方を見直し、変えていかなければ、なかなか出生率の低下には歯止めがかからないと思われます。

持続可能な社会を実現するために、教育や雇用制度、社会保障制度はどうあるべきかの検討は始まっていますが、改善の方向には至っていません。

ライフステージからライフコースへ

生産年齢人口の減少の中で、人生100年時代を考えると、長い期間、働いたり、社会活動に参加できたりするようにすることが必要になってきます。現在の生産年齢は15歳~64歳で考えられていますが、健康であれば、64歳を過ぎても働くことはでき、実際65歳以上の有業者数は増加しています2。高齢期を迎えても心身が健康であること、それは高齢期以前から健康であること、或いは心身の健康だけでなく生活全体、社会全体がWell -being な状態であることが必要です。

人の一生を考える時、ライフステージ別に課題を整理することが多くあります。ライフステージとは、人の一生を生物学的な特徴に合わせていくつかのステージに区分する考え方です。乳児期、離乳期、幼児期、学童期、思春期、青年期、成人期、更年期、老年期などの区分があります。ライフコースは各個人の生活を包含し、一生でたどる道筋で、家族経歴、職業経歴、居住経歴などをとらえて考えるものです。例えば、結婚や出産の経歴やその年齢、職業についても雇用形態は様々ですし、転職などの経歴も人それぞれです。生涯を通じて学ぶ機会もあります。必ずしも皆が同じライフステージで同様の道筋をたどらず、多様化している現在の社会では、ライフステージに区切ってではなく、ライフコースにそって健康支援をしていくことが重要視されています3

食べることは生涯続く

私たちは食で生命を維持しています。栄養素の働きはライフステージで変化し、食事から摂取が必要なエネルギーや栄養素の量も変化します。食べる食品や料理も生活経験の中で広がり、多様化していきます。一方、食生活は、家族の在り方やその変化、学校や職場といった環境の変化、生活している地域の環境等にも大きく影響を受けています。食生活も単にライフステージで考えるのではなく、人それぞれの人生の中で考え、支援していくことが大切です。例えば、新型コロナウイルス感染症の流行といった社会背景のなか、DXの推進は加速し、働き方は大きく変わり、多様な働き方が生まれました。こうしたことに伴い、職場で社員食堂を利用して食べていた食事は、在宅勤務が増え、自分で食事を準備するように変化した人もいると思います。また、子育てと仕事を両立させる人にとって、食事を準備する時間の確保は子育てをしていない時期とは大きく異なるものと思います。職場のWell-beingだけでなく地域のWell-beingも含め、企業や地域組織で食環境を整えていく取り組みが望まれます。

人生100年時代を目指して、ライフコースに沿って絶え間なく、それぞれの場で、誰一人とり残さず支援する取組を計画し、実行に移していかないとなりません。なにより、自分ごととして捉え、一人ひとりが自身の生活や食生活を見直し、実行していくことが大切です。

 

 参考文献

1)国立社会保障・人口問題研究所ホームページ (https://www.ipss.go.jp/)(アクセス日2024.11.2

2)独立行政法人労働政策研究・研修機構 国勢調査ベース就業者 早わかりグラフで見る長期統計情報(2023) https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/timeseries/index.html (アクセス日2024.11.2

3)厚生労働省 健康日本21(第三次)推進のための説明資料(2023https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kenkounippon21_00006.html  (アクセス日2024.11.2

 

石田 裕美(いしだ ひろみ)
女子栄養大学 栄養学部長

学歴
昭和58年3月 女子栄養大学 卒業(管理栄養士)
昭和60年3月 女子栄養大学大学院修士課程修了
平成4年3月 女子栄養大学大学院博士後期課程修了 博士(栄養学)

職歴
昭和60年4月 女子栄養大学 助手
平成 7年4月  同      専任講師
平成11年4月  同      助教授
平成17年4月  同      教授 現在に至る

学会・社会活動
日本給食経営管理学会理事長
日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会構成員

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