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【給食調理における人材養成・人材開発~調理動作研究より~】2)アレルギー食の作業工程調査〜熟練度別人間工学的考察〜

図1熟練者の作業の様子

1.調理科学における作業研究

集団給食施設での調理従事者の作業は、家庭での調理とは異なり多人数分を調理するため、長時間の立位作業、同じ動作の繰り返し、および大きく重い調理器具の運搬・清掃などに特徴があります。海外での調理動作に関する研究に目を向けてみるとアジア料理では、箸や調理へラを大量調理だけでなく家庭料理でも利用する機会が多くあります。先行研究の一例としてヘラ持ち手の柄の長さと持上げ角度が、食品の揚げ方、食品の回転、およびヘラを用いた調理のパフォーマンスに及ぼす影響は明らかです1

2.給食調理現場の労働特徴

給食施設での大量調理は一般家庭などでの少量調理とは異なり、食材量が食数に比例して重量が増し、使用する器具や機器も大きく作業者の身体負担も増加します。給食現場といった職業調理現場では、熟練度が異なる作業者が同一環境・空間で作業を行います。また給食調理現場では調理作業のみでなく、献立作成、発注、検収、配膳、洗浄も一般調理とは規模が異なります。

実際の給食調理現場では幼児100食程度の場合、レトルト類や既製品を使用するのではなく、野菜のカットから調理員の手作りで食事が提供されます。長時間にわたる立位姿勢での作業から身体的負担が起きるだけでなく、定められた時間までの提供する必要から精神的負担から疲労の蓄積が起きます。加えて、2011年に厚生労働省により策定された「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」をうけ、各保育所施設での食物アレルギーガイドラインの整備が進みました。保育園では安全かつ正確な食物アレルギー対応が必要であり、調理員の負担・疲労は増加しています。作業中に起きる疲労に伴う集中力の低下は人間工学でいうヒューマンエラー(意図しない結果を生じる人間の行為)を起こす可能性を高めます。

3.アレルギー対応調理の作業分析

食物アレルギーを持つ小児は年々増加しており、また原因も多岐にわたるため調理従事者、特に新卒者にとっては対応のための負担が増加しています。そこで、同一メニュー内で熟練者と初修者の人間工学的作業分析を実施しました(1)。熟練者として実務経験10年の女性1人(身長158cm)、初修者として栄養士課程・短大1年生の女性1人(身長156cm)2人を対象者としました。

図1 熟練者の作業の様子

図1熟練者の作業の様子

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

調理開始から材料準備、アレルギー対応食の調理、通常食の調理までを測定対象としました。測定評価項目は、作業姿勢評価、筋活動評価、作業効率評価としました。熟練者のモダプツ法による作業時間が1349秒に対し、初修者は2175秒でした(2)

モダプツ法による熟練者と初修者のアレルギー食の調理作業時間の比較

作業のどこに無駄や無理があるのか時間を尺度に評価したところ、初修者ではつなぎ作業では器具の選択をやり直す無駄や、作業手順がわからず周囲に確認するなど一人で作業を遂行するのが困難でした。熟練者は初修者に比べて調理全体の作業において、少ない筋活動量で作業を終えられたことが、筋疲労が軽減される可能性を示しました(3)。作業時間が長くなると、筋活動も増えるため疲労感につながると考えられます。また、作業姿勢においても熟練者の首角度は11度に対して、初修者は43度と前傾で作業をしており、これも初修者の疲労感を引き起こしている要因の可能性が高いと考えられました。

3  熟練者と初修者のアレルギー対応オムライス作業時の積分筋電図の比較

通常食に加えてアレルギー食により工程数の増える現場では、フードプロセッサーなどの機械の導入により、図2で示した通り作業時間の差は3秒であり、調理従事者、特に初修者にとってモダプツ法による作業時間の短縮といった有効性が示されました2)。機械により、作業時間は熟練度により変わらないが、作業時の力の筋活動については作業によって熟練度で筋活動の発揮具合が経験によって異なることが推測されました。

アレルギー対応食における熟練度が身体応答に与える影響は、熟練者の筋作業負担が初修者に比べて減少することが確認され、特に手順が複雑な調理やみじん切りの反復動作では、熟練することよって調理作業を円滑に進めることや作業動線の工夫により効率的な作業が可能となることが明らかになりました。

アレルギー食の作業工程調査をもとに熟練度別人間工学的考察を行いました。調理動作研究より給食調理における人材養成、人材開発について、単に基本調理技術を身につけるだけではなく,前後の調理動作を連携させた,全体像を見通すことが出来るトレーニングを行う事によって,「段取り力」「スピード」加えて「衛生管理ができる」「チームワーク力」を達成できる調理員の人材育成に,今後とも養成施設としてさらに努めて行きたいと考えます。

 〈参考文献〉

1) Wu, S. P. and Hsieh, C. S. (2002), Ergonomics study on the handle length and lift angle for the culinary spatula, Applied Ergonomics, 33, 493–501

2) 中島君恵,中島みづき,佐藤健,江川賢一(2021),アレルギー食の作業工程調査熟練度別人間工学的考察,日本調理科学会大会研究発表要旨集,35

 

中島 君恵(なかじま きみえ)

桐生大学医療保健学部栄養学科 准教授

 

専門:調理科学

女子栄養大学栄養学部卒業後、大和製罐株式会社 総合研究所、桐生短期大学勤務。

1998年に復職し2025年から現職。

管理栄養士。修士(生活学)

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