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society5.0社会に向けての今後の病院における管理栄養士・栄養士について

はじめに

2000年の栄養士法改正によって、病院の管理栄養士・栄養士は「栄養素」での栄養管理から「人間」の栄養管理へ移り変わってきました。それまでのイメージはいわゆる「給食のおばさん」といわれる、給食提供を主な業としている専門職でしたが、多くの管理栄養士が患者さんのベッドサイドへ行き、その方の栄養管理や栄養食事指導を今まで以上に積極的に行っていくようシフトされてきました。
加えてこの「society5.0社会」※を迎える流れから、管理栄養士・栄養士の仕事もさらに大きく変換していく可能性があります。今回はsociety5.0社会での管理栄養士・栄養士の活躍をどう考えたらよいか?を小職なりに考えてみました。
※Society 5.0とは…AIやロボットの力を借りて、我々人間がより快適に活力に満ちた生活を送ることができる社会のこと

管理栄養士・栄養士は生き残れるのか?

いきなり、このような過激なタイトルでビックリされる方が多いのではないかと思います。ただ、管理栄養士・栄養士だけではなくどの業種においても、society5.0社会の波にうまく乗らなければ、その業種は淘汰される可能性を孕んでいます。

イギリスのオックスフォード大学でAI(人工知能)などの研究を行うマイケル・A・オズボーン准教授の論文「THE FUTURE OF EMPLOYMENT:HOW SUSCEPTIBLE ARE JOBS TO COMPUTERISATION?」が、2013年に発表されました。タイトルを直訳しますと「雇用の未来−コンピューター化によって仕事は失われるのか?-」となり、702の職業をコンピューターに取って代わるかを解析した報告です。これによると、生き残れる職業として管理栄養士・栄養士は11位として報告されています。一方で、日本のとある雑誌での特集において、19医療系職種の2040年における需要予想が2019年に発表されました。この時の栄養士は重要が減るランキングで第8位、需要が増えるランキングで第9位として発表されています。両方の結果においてトップ10にランキングした職種は管理栄養士・栄養士だけになります。これを小職なりに考察してみるとオズボーン准教授の論文で恐らく対象となった管理栄養士は欧米で活躍している管理栄養士の方々であろうと思います。このことから需要が増えることを考えると、やはり「人間」の栄養管理を行うことが、私たちが生き残るための術ではないかと思います。「栄養素」での栄養管理については衰退していくのではないか?と感じています。この結果から重要なことは「普遍的に生き延びてきた職業になるためには、その時代の社会環境に適応し、人々の需要に応えていかなければならない」ということだろうと思います。時代が流れ、このようにsociety5.0社会を向けるにあたり、専門職へのニーズも変化していくことになるということだと思います。

給食管理業務の行く末

今までの給食管理は「栄養素」での栄養管理に注力し、それらに付随する事務業務においても管理栄養士や栄養士が行っていると思います。この中で例えば、給食管理業務で大きく時間が割かれているであろう「発注業務」「在庫(出納)業務」については、AI化で十分に対応できると思います。また、献立作成業務においてもAIに何万といったレシピを記憶させてしまえば、メニューの組み合わせについてもAIが行えるということが容易に想像できます。そうなると、今まで給食管理業務に携わってきた管理栄養士・栄養士の業務が減り、自分たちの仕事がAIに代わられてしまう危機感が生まれてくると思います。
そこで、給食管理を担っていた管理栄養士や栄養士もいかに「人間」の栄養管理に参画して行けるかがカギになると思います。

個別性重視の栄養・食事管理

前述、給食管理を担っていた管理栄養士や栄養士においても「人間」の栄養管理に関わっていく必要性が、生き残る術であることを書きました。では、給食管理を業としている管理栄養士・栄養士がどうやって、「人間」の栄養管理に関わっていくか?ですが、これはただ単に病院施設の管理栄養士が行っている、ベッドサイドでの栄養管理を奪ってしまえということではありません。給食管理の中にいかに、人間への栄養管理の要素を入れていき、モデルチェンジを図っていくかということです。人間が人間に関わること、AIでは決してできないことを給食管理に積極的に取り入れていく必要性があると思っています。

超高齢社会を迎え、平均寿命が延びている一方で、国民は1つの病気だけではなくいくつもの病を抱え生活する時代を迎えています。例えば、胃がんを患った方が糖尿病の既往があるなど。そうなると胃を切除した場合、少量から消化の良いものを食べるようになりますが、一方で消化の良いものというと比較的に血糖コントロールが乱れる食品が多いということもあります。そうなると今までの術後の食事では済まない可能性が往々にしてあり、個別性を重視した栄養管理が必要となるため、食事も個別対応しなければなりません。その時に給食管理に携わる管理栄養士・栄養士がその方に関わり個別性を重視した食事管理を担っていくようにすることが求められてくると思います。また、地域で病気をもちながら生活する方々もいる時代を迎えているので、施設を超えて地域の「食」を支えることが求められるようになると思います。

終わりに

管理栄養士・栄養士が栄養・食事を通じてsociety5.0社会で活躍できる社会を作るためには、自分たちで社会的ニーズをしっかり捉えて、変貌を遂げる覚悟を持つことが必要だと思います。

 

 

原 純也

武蔵野赤十字病院栄養課 栄養課長
公益社団法人 日本栄養士会 常任理事
公益社団法人 東京都栄養士会 理事

資格
がん病態栄養専門管理栄養士、がん専門管理栄養士研修指導士
病態栄養認定管理栄養士、NST専門療法士、健康運動指導士 等

所属学会
日本糖尿病学会
日本静脈経腸栄養学会 学術評議員
日本病態栄養学会  代議員 学術評議員  日本栄養療法ガイドラインWG委員  プログラム委員会アドバイザー
その他多数

主な活動
(公社)日本栄養士会ではR2年より職域統括事業部担当、また、2024年診療報酬・介護報酬同時改定検討員会委員長、
地域包括ケア推進委員会委員、会員増対策検討委員会委員、研究教育センター委員を兼務し、
(公社)東京都栄養士会ではH28-30に事業部長で東京都栄養士大会実行委員長として企画運営に関わってきました。
(一財)日本栄養療法推進協議会の評議員、日本糖尿病療養指導士認定機構ではH24-30年広報委員、
令和元年からはアジア栄養士会議プログラム委員会委員、R2年~食物アレルギー診療ガイドライン策定委員会委員も担当しています。

主な著書
楽しく学べる糖尿病療養指導 ホップ・ステップ・ジャンプ (編集) 南江堂
糖尿病看護の知識と実際 メディカル出版(共著)
糖尿病レクチャー これだけは知っておきたい糖尿病食事療法Q&A 総合医学社 (共著)など多数

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