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【連載】学校給食における食物アレルギー対応の最前線/第2回

第2回:対応の土台となる「学校生活管理指導表」の正しい運用
~医師の診断に基づく安全管理と保険適用のインパクト~

第1回では、木の実類の急増など最新の疫学について解説しました。多様化・複雑化するアレルギーに対し、学校給食という「大量調理・集団喫食」の場で安全を確保するには、正確な医療情報の把握が不可欠です。

今回は、アレルギー対応の“パスポート”とも言える「学校生活管理指導表(以下、指導表)」の重要性と、2022年度から始まった保険適用による運用の変化、そして教職員が知っておくべき「正しい情報の読み解き方」について詳述します。

1.なぜ「指導表」でなければならないのか

かつて学校現場では、保護者のメモや独自の聞き取りシートで除去食を提供することもありました。しかし、医師の診断に基づかない対応は、過剰除去( 実は食べられるのに、念のためにと除去し続ける(児童の栄養・QOL低下))と評価不足( 危険な状態なのに適切な対応がなされない(事故のリスク))のリスクを抱え込みます。

2012年の調布市での事故を教訓に、文部科学省は指導表の提出を必須とする方針を打ち出しました。指導表は医師の署名・捺印がある公的な「診断書」であり、学校独自の様式や検査結果のコピーで代用することはできません。

2. 2022年の転換点:保険適用による「文書料負担」の解消

これまで提出の障壁となっていたのが、数千円単位の「文書料(自費)」でした。しかし、2022(令和4)年度の診療報酬改定により、大きな変化が起きました。それは、指導表作成の保険適用化です。指導表の「食物アレルギー・アナフィラキシー」に関する記述、つまり学校における食物アレルギー対応に関する記述が、保険診療(診療情報提供料I)の対象となりました。自治体の医療費助成制度により、保護者の窓口負担は実質無料、あるいは数百円程度に軽減されています。学校側は「お金がかかるから提出したくない」という理由が過去のものであることを周知し、全数提出を強力に推進すべき環境が整っています。

3. 学校が避けるべき「2つの危険な運用」

指導表提出において、学校側が良かれと思って保護者に詳細な情報を求めることが、かえって事故を誘発するケースがあります。

① 血液検査の結果(IgE抗体価)を求めない
血液検査の結果はあくまで目安であって除去の根拠とはなりません。学校独自の基準を設けて判断することは間違いのもととなります。血液検査が陽性でも、症状が出ず食べられる子は多くいますし、数値が低くても重篤な症状が出る子もいます。

② 「食べられる範囲」を細かく設定させない
「つなぎなら可」「よく焼けば可」などといった条件付き指示は、現場の混乱を招きます。学校における食物アレルギー対応の原則は「完全除去」か「完全摂取」の二者択一です。
大量調理の現場では、家庭のような微調整は不可能です。「少しなら食べられる」場合でも、給食では安全を最優先し「提供しない(完全除去)」を選択するのが鉄則です。

4. 指導表を読み解く:診断の「確からしさ」を見極める

残念ながら正しい診断がくだされていない患児は少なくありません。不要な除去は、児童の豊かな食生活を奪い、栄養面での課題を抱えさせることになります。また不要な除去対応は、保護者や調理場におけるストレスになりえます。指導表においては、「除去根拠」の欄を確認することで、その除去の正確性を推測することができます。

根拠が「3」や「4」ばかりで除去品目が多い場合は、主治医による再評価(本当に除去が必要か)を促すことも、児童の成長を支える学校の重要な役割です。また根拠の強い「1」や「2」であっても、特に鶏卵・牛乳・小麦アレルギーは経過中に治っていく可能性が高いため、過去の症状が1年以上前であればその診断の正確性は年々下がっていきます。

5. 「調味料・だし」の除去と重症度の判断

指導表の下部にある「調味料・だし」の項目は、重症度を見極めるリトマス試験紙です。通常のアレルギー児は 醤油中の小麦や、だしに含まれる微量のアレルゲンは除去不要です。このためここにチェックが入る児童は、極めて微量で症状が出る「ハイリスク児」と捉えることがきます。

文部科学省の指針では、調味料やだしの除去が必要なレベルの重症児に対し、無理に給食で除去食を作ろうとすれば、コンタミネーション(微量混入)のリスクが極めて高くなります。この場合は給食対応を行わず、むりせず「弁当対応」とすることが推奨されます。

まとめ. 「指導表」は安全な給食へのスタートライン

指導表は単なる「禁止リスト」ではなく、医師・保護者・学校が子どもの安全を守るための「契約書」です。保険適用により、もはや提出をためらう理由はありません。学校側はこの書類を正しく読み解き、適切な「除去」と、不必要な除去を減らす「解除」への道筋をつけることが求められています。

次回予告:第3回「組織で守る:アレルギー対応の実施体制と面談の要諦」
指導表を受け取った後、校内でどのように体制を組むべきか。個人の善意に頼らない「組織的な安全管理」と、保護者との合意形成をスムーズに行うための面談のポイントを解説します。

今井 孝成(いまい たかのり)

1996年東京慈恵会医科大学卒業。
同年、昭和大学医学部小児科学講座に入局。国立病院機構相模原病院小児科医長などを経て、2019年より昭和大学医学部小児科学講座教授、および昭和大学病院小児医療センター長を務める。
医学博士。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・指導医の資格を有し、専門は小児アレルギー学。
学会活動では、日本小児アレルギー学会および日本小児臨床アレルギー学会の副理事長、日本アレルギー学会理事などを歴任。
臨床の最前線に立つ傍ら、食物アレルギーや食育に関する研究・普及活動にも精力的に取り組んでいる。

 

 

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