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おいしい食をすべての人に/第1回 「食の障壁(バリア)をなくそう、フードバリアフリーとは」
2026.07.10
コラム
投稿者:田中 章雄
前回の記事では、インバウンド(訪日外国人)数が2025年には前年比15.8%増の過去最高の4268万人となったことをお伝えしました。2026年になってからは、中国からの訪日数は前年より大きく減少しているものの、その他の国・地域についてはおおむね増加しています。
こうしたインバウンドの方が、訪日の目的、すなわち日本滞在時に楽しみにしている行動としては「食」に関するものが多いのは言うまでもありません。
図1は、昨年、弊社が全世界10か国・地域(アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストラリア、韓国、中国、台湾、ベトナム、タイ)に在住している計2000人を対象に弊社が実施した調査「インバウンドの動向調査2025」で、「日本に行ったときに、ぜひやってみたいと思うことは何ですか?」という質問に対する結果をまとめたものです。その結果、最も多いのは「温泉めぐり」で38.5%でした。
次いで多かったのは「日本各地に伝わる郷土料理の体験」で37.5%、そして「高級な日本料理店での飲食」が33.9%でした。また、「日本食の調理体験」が26.3%、「日本酒を飲む」が24.3%といずれも多くの人が希望しているようです(図中でオレンジ色は食に関する項目)。
もちろん、「温泉めぐり」や「日本風の旅館への宿泊」の一環として、日本料理を食べることが含まれている場合もあるため、この数字以上に多くの人が日本での食事を楽しみにしているのです。
ところで、日本で食べてみたい料理を聞いたところ、ほぼ全員が「お寿司」と「ラーメン」を選んだほか、「すき焼き」、「とんかつ」、「てんぷら」、「うなぎ」、「カレー」などを選んだ人もそれぞれ7割以上いるように、非常に多くの料理メニューを楽しみにしているようです。
実際に日本に観光に来たインバウンドの方々に、日本でどのような料理を食べたかについて聞いてみたところ、なんとも不思議な結果になりました。
ある30代の女性は友人たちと4人で日本旅行を楽しんだのですが、そのうちの一人は5泊の滞在期間中に、お寿司はほとんど毎日食べ、ラーメンは3店を回って食べ比べたほか、とんかつ、てんぷら、海鮮丼、カレーなどいろいろ食べまわって満足したとのことです。そして、5泊の間に、なんと延べ32食もの料理を食べたというのです。つまり、お寿司とラーメン以外で24食も食べているということになります。
どう考えても数字が合いません。つまり5泊であれば1日3食とすれば15食前後のはずです。それが5日間で32食というのだから、1日当たりにすると6食以上にもなります。
しかも、これ以外にコンビニでおにぎり、いなりずし、弁当も買っているというのです。いったいどんな胃袋と、日本での食事だったのか、まったく想像もできません。最初に疑ったのは、宿泊数の記入ミスです。5泊ではなく、10泊くらいしたのであれば、計32食というのも頷けます。
ところが、他の回答者の中にも、彼女のように宿泊数の3倍(つまり1日3食)を大きく超える数の料理を食べている人がとても多いのです。
そこで、実際に羽田空港や、関西空港、新千歳空港などにあるレストランコーナー、そして浅草や黒門市場など外国人が好む観光地の飲食店街を回って、インバウンドの食事の状況を直接調べてみました。そうしたところ、驚くべき光景を目の当たりにしたのです。
写真2を見てください。これはインバウンドに人気のある新千歳空港にある海鮮和食屋さんで提供されている「黄金海鮮丼」です。なんと、カニ、エビ、イカ、ホタテ、サーモン、いくら、マグロ、ブリなどによる計7つの丼から構成されているのです。その金額は1万円超。
そして、別の店ではマグロ丼とうな丼、かつ丼、天丼とみそ汁がセットになった「ぜいたく丼」というのを提供していました。私個人的には、うな丼とかつ丼を一緒に食べようとは思いませんが、「せっかく日本に来たのだから」と、人気の丼を一緒に食べたいと思うインバウンドが少なくないということなのでしょうか。
そして、写真3は大阪・黒門市場にあるオムライス専門店で一番人気の「カツカレーオムライス」です。オムライスの上に大きなとんかつが乗っていて、さらにカレーがかかっています。つまり、一皿でオムライスとカレーととんかつが食べられるというぜいたくなメニューなのです。
ちなみに、私はカツカレーが大好きですが、一緒に食べるのはオムライスではなく、白米(ライス)でなければ許せません。
そして極めつけは写真4ですが、この写真を見てこれが何かわかりますか? カニとエビとホタテとサーモン。そしてシチューのようなソースがかかっています。ところがその下に、なんとオムライスが隠れています。このメニューの名は「海鮮デラックスオムライス」。これも人気メニューとのことです。
結局、これらのメニューを食べた人は、1食で複数の種類のメニューを同時に食べることができるということなのです。これなら、1日で6種類の料理を食べたというのも納得できます。
ところが、これらの人気メニューの中の多くは「日本の料理」ではあっても、「日本料理」「和食」とは言えないものが多いのです。例えばラーメンやカレーなどは、発祥は海外であっても、日本独自の変化や発展をしており、インバウンドが「日本の食」として喜んで食べています。しかし、ユネスコの無形文化遺産に登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」とは違ったものです。
日本に来て、おいしい日本の料理をいろいろと食べたいと思ってくれることはとても喜ばしいことです。しかし、できれば各地に伝わる伝統的な「日本料理」をじっくりと味わってもらいたい、と思うのは私だけではないと思います。
では、どうすれば「日本料理」をもっとインバウンドに楽しんでもらうことができるのか・・・次回はそのような視点で考えてみようと思います。

一般社団法人日本フードバリアフリー協会 代表理事
株式会社ブランド総合研究所 代表取締役
1959年福井県生まれ、東京工業大学理学部卒業。
日経BP社で雑誌記者、新雑誌・新事業開発を約20年間担当。日本ブランド戦略研究所社長を経て、2005年にブランド総合研究所を設立し、代表取締役社長に就任。
2008年に地域ブランドおよび地域団体商標の普及・啓蒙活動により「知財功労賞経済産業大臣表彰」を受賞。2011年にギネス世界記録地域活性化委員会副委員長、2012年9月に一般社団法人ハラル・ジャパン協会副理事長、2017年食農体験ネットワーク協議会代表、2019年一般社団法人日本フードバリアフリー協会理事長に就任。2020年都道府県アンテナショップ研究会代表に就任。
地域ブランドの提唱者および第一人者として、毎年100箇所で地域ブランドや地域活性化についての講演・セミナーを実施している。日本テレビの人気テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」、「世界一受けたい授業」などのコメンテーターとしてもおなじみ。
また、2016年5月の伊勢志摩サミットにおいて、伊勢の広報統括アドバイザーに就任するなど、シティプロモーションの専門家でもある。
全国の自治体の評価調査「地域ブランド調査」を開発・実施。地域ブランドアドバイザーや、地域ブランドコンサルタント、食農連携コーディネーター、「地域ブランドNEWS」編集主幹などを通して各地のブランド戦略に取り組んでいる。