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おいしい食をすべての人に/第1回 「食の障壁(バリア)をなくそう、フードバリアフリーとは」 

■急増するインバウンド

2025年のインバウンド(訪日外国人)数は前年比15.8%増の過去最高の4268万人となりました。図1は訪日外国人数を年別に比較したものですが、2023年以降に急増し、コロナ禍以前に目標としていた年間4000万人を大きく超えました。2010年が86万人でしたので、15年間で約5倍に急増したことになります。

実際に、東京・銀座を歩いていると、日中や休日などは日本語が聞こえてこないくらい外国人比率が高くなっています。新幹線や地下鉄、最近では都内の路線バスでさえ外国人の方が多い時間帯もあります。渋谷のハチ公の付近は、もはや外国人しかいません(ハチ公前での記念写真に外国人が並んでいるのは、とても違和感がありました)。これは京都、大阪、札幌などでも同様です。先日、大阪の黒門市場に行ってみましたが、中央の通りを歩いているのはほとんど外国人。ちなみに、飲食店のスタッフも日本人はごく少数でした。

■台湾の4割はベジタリアン!

さて、日本を訪れているインバウンドを国・地域で比較してみると、2025年に最も多かったのは韓国の946万人で、次いで中国が910万人、そして台湾が676万人と続いています(図2)。この3か国でインバウンドのおよそ6割を占めています。

その中でも、台湾は前年比で11.9%も増えており、滞在日数が韓国より長いことから、観光地や飲食店などで台湾人を見かける比率はとても多く感じます。台湾からは北海道から九州・沖縄まで全国各地に航空便が乗り入れしているほか、沖縄には大型クルーズ船も数多く運航しています。全国各地で多くの人が観光を楽しんでいる台湾ですが、実はベジタリアン(菜食主義者)が多いのをご存じでしょうか?

台湾人の中で肉や魚など動物性のものを一切食べない「素食(スーシー)」の割合は約13%を占めています。さらに、動物性の食事を一切食べないわけではなく、量を控えたり、一定期間のみ野菜中心の生活をしたりする「フレキシタリアン」を含めると、全国民の40%を超えるとも言われています。
同行者のうち、ひとりでもベジタリアンがいれば、ほかの人もベジタリアン対応メニューのある店に入りたいもの。だから、台湾からの訪日客を食事面で満足してもらうには、「ベジタリアン」としての対策も必要であるということになります。

ベジタリアンは台湾以外にも世界中にたくさんいます。ベジタリアンが最も多いのはインドで、なんと全人口の30~40%を占めており、その数は4億人。そして英国やイタリアなど欧州諸国にもベジタリアンが数%を占める国があります。

また、豚肉やハラル処理されていない肉(牛肉、鶏肉を含む)を食べないムスリム(イスラム教徒)が多いインドネシア(全国民の約87%)やマレーシア(約64%)、シンガポール(約15%)などの国の人たちが日本を訪れた時には、提供する食事に気を遣う必要があるということです。

図2の中で赤くなっている国・地域はベジタリアンやハラルなど食の規律を意識する人が多い国であり、インバウンドが急増している今、こうした食の規律を意識せざるを得なくなっています。

■ベジタリアンに対応するには

ところで、台湾の街中には、ベジタリアン料理を扱う「台湾素食」の店が数多くあります。「素食」という言葉や「卍」の記号を掲げていて、誰にでもわかるようになっています。この店では動物性の材料を用いないとともに、五葷(ごくん)と言われるニンニク、ネギ、ニラ、ラッキョウ、タマネギといった仏教で禁じられている野菜も使いません。

ただ使わないというだけではなく、野菜で肉の代替をした「もどき料理」も多いようです。「素肉」と呼ばれる大豆で作られたベジタリアン向けお肉を使った料理も多い(日清オイリオグループの大豆ミートが有名)のが特徴です。

日本でも江戸時代までは肉食が避けられていたほか、現在でも仏事では肉や魚を使わない精進料理を食べることが少なくありません。その際に「がんもどき」、「精進うなぎ」、などのもどき料理もよくふるまわれます。

■魚を食べるベジタリアンもいる

一口でベジタリアンと言っても、種類は色々とあります。そもそも「ベジタリアン」とは、命のあるものを殺生するのを避けるのが目的なので、動物の命を奪う行為にはつながらない牛乳や卵は食べてもいいとされています。

一方で、動物由来のものを一切口にしない「ヴィーガン」もいます。彼らは牛乳や卵、そしてハチミツも口にしないうえに、毛皮や革製品、ウール、シルクなどの動物性素材の衣服や靴、ベルト、バッグなども身に着けません。

一方で、その中間的ともいえるオボベジタリアン(卵は食べる)、ラクトベジタリアン(牛乳は飲む)、ペスカタリアン(魚は食べる)などもいます。また、鶏肉や魚などの「ホワイトミート」は食べられるペスカタリアン(江戸時代の日本人はこれにあたる)もいます。そのため、ベジタリアンだと言っても、人によって食べられない食材は人によって異なるということです。

昨年実施した調査において、台湾から訪日した観光客のうち40%の人は、朝食でコンビニやスーパーなどで買ったものを食べたと答えています。これはベジタリアンに対応していない朝食ビュッフェなどを利用することを避けた結果なのかもしれません。

実際に、「何が食べられるのかわからない」と答える人は少なくありません。食材として肉を使っていなくても、出汁や調味料に動物由来のものを使っている可能性もあるからです。

特に、地方では、日本語のメニューだけで、料理の説明や写真もないような飲食店も多くあり、せっかくの日本の高い調理技術や衛生対策、おもてなしの配慮があるにも関わらず、外国人に食べてもらう機会を損失してしまっていることも少なくありません。

実は、多くの飲食店のメニューや総菜、加工食品の中でも、ムスリムやベジタリアンなどが食することができるものは少なくありません。例えば野菜炒め、豆腐料理、もちろん混入や誤記などがないようにすることは不可欠ですが、ほんの少しの工夫と、お客様が正しく判断できる表記をすることで、それは解決できるのです。

すぐにでも対応できるのは、インバウンドなど、食の規律がある人が安心して食事ができるように、表記方法を工夫することです。例えばアレルギー表示と一緒に、材料に含まれる肉の種類をイラストで記載する方法があります。そうすれば、ベジタリアンなどとともに、食物アレルギーをもつひとも自分の判断で注文したり、食べたりすることができます。

おいしい料理を、誰にでも自分で判断して食べられるような環境を作りましょう・・・それが食のバリアフリーがめざすものなのです。

 

※アレルギーや魚、肉の種類などのイラスト素材は、日本フードバリアフリー協会のホームページで無償で公開しています。

日本フードバリアフリー協会

無料の会員登録をすれば、以下のピクトグラムを無償で利用できます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

田中 章雄(たなか あきお)

一般社団法人日本フードバリアフリー協会 代表理事
株式会社ブランド総合研究所 代表取締役

1959年福井県生まれ、東京工業大学理学部卒業。
日経BP社で雑誌記者、新雑誌・新事業開発を約20年間担当。日本ブランド戦略研究所社長を経て、2005年にブランド総合研究所を設立し、代表取締役社長に就任。
2008年に地域ブランドおよび地域団体商標の普及・啓蒙活動により「知財功労賞経済産業大臣表彰」を受賞。2011年にギネス世界記録地域活性化委員会副委員長、2012年9月に一般社団法人ハラル・ジャパン協会副理事長、2017年食農体験ネットワーク協議会代表、2019年一般社団法人日本フードバリアフリー協会理事長に就任。2020年都道府県アンテナショップ研究会代表に就任。

地域ブランドの提唱者および第一人者として、毎年100箇所で地域ブランドや地域活性化についての講演・セミナーを実施している。日本テレビの人気テレビ番組「秘密のケンミンSHOW」、「世界一受けたい授業」などのコメンテーターとしてもおなじみ。
また、2016年5月の伊勢志摩サミットにおいて、伊勢の広報統括アドバイザーに就任するなど、シティプロモーションの専門家でもある。
全国の自治体の評価調査「地域ブランド調査」を開発・実施。地域ブランドアドバイザーや、地域ブランドコンサルタント、食農連携コーディネーター、「地域ブランドNEWS」編集主幹などを通して各地のブランド戦略に取り組んでいる。

 

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