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高齢者の栄養ケアマネジメントについて~介護保険制度の方向性や多職種連携の在り方を踏まえて

皆さま、はじめまして。国際医療福祉大学大学院 教授の石山麗子と申します。このたび、フジ産業様より「高齢者の栄養ケアマネジメント」をテーマに、コラムのご執筆の機会を頂きました。どうぞよろしくお願い致します。

私は介護保険制度のケアマネジャーとしての実践、その後、厚生労働省の介護支援専門官として介護保険制度改正(平成30年度)の、特にケアマネジメントに関する事柄に関わらせて頂きました。「栄養」や「食」については専門ではありませんので、高齢者のケアマネジメントの立場から述べさせていただきたいと思います。

 

高齢者支援に必要な生活の数値化=科学化とは

梅雨入り前の5月、湿度は低く、一年のうちで過ごしやすい季節です。とはいえ、晴の日には思いがけず気温が上昇し、初夏を思わせるような陽射しに汗ばんだ、という経験をお持ちの方も多いと思います。毎年この時期に増加するのは、熱中症による救急搬送です。9月まではリスクの高い状態が続きます。特に高齢者の健康の維持は、気温と湿度、水分と栄養摂取等、いかに適切に”ふだんの生活”を送るかにかかっています。

高齢者支援に携わる専門職にとって今日、生活の数値化=科学化は必須条件となりました。そのメリットは複数あります。一例として、高齢者は体調を崩していても、症状ははっきりと出にくく、なんとなく元気のない状態となりがちです。日頃から体重、食事、水分、排せつ、活動と睡眠時間等の数値を確認しておくことで、小さな変化に早めに気付くことができます。

 

事実に基づくアセスメントが栄養ケアマネジメントに繋がる

高齢者に「お水、飲んでくださいね。」とお願いすると、大半は「はい。飲んでいますよ。」とお答えになります。ところが朝から何を、どれくらい摂取したか、飲み物の種類別に量を確認すると、適切量に達していない方は8割程度に上りました。

また「何を」「どれだけ」飲んでいるか、食べているか確認しているケアマネジャーは、1〜2割にとどまります。提供量と摂取量の違いを明確にしていない状況も散見されます。特に在宅ケアでは、水分摂取量や栄養摂取量を計測するのは容易なことではありません。だからといって何もしなければ、高齢者の健康と命を守れないおそれもあります。「計測なんて大変だな」と思われるかもしれませんが、一日分でも良いですから計測すると意外な実態を知ることができるかもしれません。そうなれば類推に基づくアセスメントから、事実に基づくアセスメントに転換し、一層戦略的で効果の高い、利用者の生活実態にあった楽しみのある水分・栄養ケアになります。

 

介護保険制度上での課題

介護保険制度は施行されて21年目を迎えますが、実践を省みれば、生活を数値化する取り組みは十分ではありませんでした。令和3年介護保険制度改正では、科学的介護情報システム(Long-term care Information system For Evidence; 以下「LIFE」という。)での情報収集が始まりました。ようやく介護の科学化に向けたスタートラインに立ちました。これまで国が把握できる介護データは、介護保険の請求単位に関する情報だけでした。これからは、利用者の状態やケアの内容を蓄積し分析できます。私たちは今、介護の未来像に向けた大きな岐路に立っています。

LIFEの基本的な項目に「栄養」が含まれたことは良いことです。他方「水分」はその他項目にとどまりました。私は「水分」の項目を必ず情報収集するよう、基本的な項目に含めるのが良いと思っています。

 

水の大切さ

厚生労働省と農林水産省で共同作成した、食事バランスガイド(図1)は、その国の文化にちなんで作成されています。日本は独楽の形で、中心は「水」です。水は身体を動かす原動力として表されています。摂取する水分量が適切でなければ唾液、胃液等をはじめとする消化液は十分に分泌されませんし、脱水状態では頭がぼんやりします。そのまま食事を摂れば、誤嚥のリスクは高まります。誤嚥性肺炎を発症すれば絶食となり、食べることから遠ざけられてしまいます。ですから、その人にとって摂取すべき適切量と水分摂取の実績量の把握は必要です。このことは施設、居宅など住まいがどこであっても同じです。

 

科学的介護と、食の楽しみ

とはいえ、毎日が「〜〜しなければならない」生活では窮屈です。生活を数値化しつつ、好みも大切にします。例えば夏は冷たい麦茶、冬はホットミルク等、美味しいと思うものは人により、季節により変化します。その人の嗜好を知ることは「楽しみながら摂れる」ことに繋がります。科学的介護の時代に入るからこそ、価値観も大切にした水分・栄養管理が一層輝きを増していきます。

 

食事バランスガイド(基本編) | e-ヘルスネット(厚生労働省) (mhlw.go.jp)

イラスト使用のガイドラインとデータ
https://www.maff.go.jp/j/balance_guide/b_guideline/index.html

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