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御器所(ごきそ)小学校 新規オープン
2025.08.08
コラム
投稿者:中島 君恵
前回【給食調理における人材養成・人材開発~調理動作研究より~】2)アレルギー食の作業工程調査〜熟練度別人間工学的考察〜において、アレルギー食の作業工程調査をもとに熟練度別人間工学的考察を行いました。給食調理における人材養成、人材開発について、単に基本調理技術を身につけるだけではなく、前後の調理動作を連携や全体像を見通すことが出来るトレーニングの重要性についてお話させていただきました。
今回は大量調理時の作業動作にフォーカスしていきます。
単に給食施設での大量調理は食材量が食数に比例して重量が増すだけでなく、使用する器具や機器も大きく作業者の身体負担も増加すると考えられます。実際の給食調理現場では幼児100食程度の場合、レトルト類や既製品を使用するのではなく、野菜のカットから調理員の手作りで食事を提供するケースが多く、長時間にわたる立位姿勢での作業から身体的負担や定められた時間までの提供する必要から精神的負担から疲労の蓄積が起きるとされています。
アジア料理では、箸や調理へラを大量調理だけでなく家庭料理でも利用する機会が多くみられます。日常的に身近にある道具の使いやすさについて少し解説したいと思います。箸や調理ヘラは人間工学的に2000年あたりまでに研究が行われてきました(Hsu, S.Hら、1991)。人がヘラを使用して調理する場合、その動作には、背屈、掌屈、橈骨および尺骨の偏位など、手首を曲げる反復動作が含まれます。これらの動きから上肢に外傷障害、特に手根症候群を引き起こす可能性があるとされ、不十分な設計の調理ヘラは、人間工学的に非効率的であり、手や手首を損傷する原因とされており、教育課程において正しい道具の使い方を習得することは重要です。Wuら(2002年)はヘラ持ち手の柄の長さと持上げ角度が、食品の揚げ方、食品の回転、およびヘラを用いた調理のパフォーマンスに及ぼす影響を明らかにしています。実験では4つの異なる持ち手の柄の長さ(20、25、30、および35cm)と4つ異なる持ち上げ角度(15°、25°、35°、および45°)で動作評価を実施しています。この先行研究により調理の効率化と調理者の作業性には調理道具が影響することが明らかになっています。
練度の差により単一調理作業(切る、混ぜる、炒める)では筋活動・姿勢に差があることが明らかになっています(堀尾ら、1996)。皆さんも経験・感覚的にイメージされる通り包丁を使う切る動作など習熟に従って、作業が早くなることが知られています。そこで、一連の調理動作において熟練者と初修者で人間工学的作業分析を実施しました。
対象者は熟練者として実務経験10年の女性1人、初修者として栄養士課程・短大1年生の女性1人の計2人になります。対象者2人にそれぞれ幼児食100食分のハヤシライスを同じ調理台にて調理してもらいました。
材料準備から実際の調理終了までを測定対象とし、測定評価項目は、作業姿勢評価、筋活動評価、作業効率評価としました(図1)。熟練者のモダプツ法による作業時間が1874秒に対し、初修者は2779秒でした。牛肉に下味をつける作業の作業時間(図2、青:熟練者、オレンジ:初修者)を比較すると、熟練者が36秒に対し初修者は81秒という結果になり、作業の様子を分析すると、熟練者は“両手”で肉をほぐしながら下味をつけていました。こういった同じ作業においても経験を重ねると次の作業を想像しながら作業に当たれるようになります。
ブランソースづくり作業(図3, 青:熟練者、オレンジ:初修者)は、ハヤシライスのルーのとろみ具合を決める重要な調理工程です。ここでの糊化(糊のような粘りがある状態)が最終的な出来栄えを決めるといっても過言ではありません。作業時間比較を比較すると熟練者が430秒に対し初修者は258秒でした。一見、この工程だけの作業時間を見ると初修者のほうが短時間で作業できているように見えますが、最終工程である煮込み時間は熟練者の鍋は600秒に対し、初修者の鍋は1500秒の煮込み時間を有しました。つまり初修者は糊化具合が熟練者に対して同じ材料で調理していましたが足りなかったのです。熟練者は糊化具合、具材の色合いなどを確認しながら作業を進めていました。
材料準備工程は包丁動作によって行われ、熟練度がモダプツ法による作業時間の短縮につながっていました。熟練者は、筋活動量の比較では、右腕橈骨筋、左右の上腕二頭筋において、初修者に比べて玉ねぎを切る作業において、小さい筋活動量で作業を行っており、作業時間が長くなると、筋活動も増えるため疲労感につながると考えられます。熟練度により次の作業への準備や作業スペースの使い方が最終的な盛り付けに至る出来栄えを考慮しているかどうか、小麦粉の糊化具合の見極めでは手順の習熟が影響していたと考察されます。経験を重ねていくことで現状の作業をしながら、次の作業準備の理解や、作業の意味合いをより理解できるようになります。
次回は実際の給食調理現場での作業分析についてお話させていただきます。
専門:調理科学
女子栄養大学栄養学部卒業後、大和製罐株式会社 総合研究所、桐生短期大学勤務。
1998年に復職し2025年から現職。
管理栄養士。修士(生活学)。