PREVIOUS POST
食と医療のコラボレーション
2020.10.23
がんばる仲間たち
投稿者:根本 風花
このコラムでは2019年度シーズンより、埼玉西武ライオンズ若獅子寮にて始まった栄養サポート業務の実際を、担当の根本管理栄養士よりコラムとして執筆していただきました。新規栄養サポート体制の立ち上げから、新しい若獅子寮への引っ越しなど、激動の初年度をどのように乗り切ったのか、またどのような課題があったのか、是非ご一読ください。
2019年1月。埼玉西武ライオンズはチーム一帯の食事改革に着手すべく、帝京大学スポーツ医科学センターの虎石真弥さん(1軍担当)・葛西真弓さん(ファーム担当)を専属の球団管理栄養士として配属されました。チームの食事改革に伴い、球団と現場調理師の間に立つコンダクターの存在が不可欠であるというご要望があり、これまでの体制を改め、フジ産業として管理栄養士・栄養士を新たに配属することが決まりました。この配属が決まったのはシーズンが始まって間もない4月でした。目的は、チーム寮におけるインシーズンの食事提供を含めた栄養サポートを、球団管理栄養士様との共創のもと実施し、選手の皆様の良好なコンディション維持に貢献するためです。その目的を達成するために、なぜ、管理栄養士・栄養士の配属が不可欠であったのか?また、何を球団様から求められていたのか。そこに至った背景と変化、その当時、私が考えたこと、感じたことを書き記していきたいと思います。
◆運営体制システム化と安全・衛生環境改善
旧若獅子寮の体制は、選手の皆様の嗜好に合わせ、各調理師が日ごとに順番で献立を立てて、個人で発注し、調理するという運営方法でした。衛生環境含め、20年以上に渡り、若獅子寮を運営してきた流れをそのまま行っており、寮そのものや厨房も旧式のままでした。
今後の食事改革を進めるうえでも、新しい若獅子寮への引っ越しを機に一新し、球団管理栄養士様との連携、安全衛生環境の整備なども含めて運営体制のシステム化を見直してほしいというご要望がありました。
また、衛生環境に関しては、抜本的に見直しを行う必要がありました。
アレルギー対応についても、選手の皆様全てのアレルギーを把握しておらず、表示も曖昧な部分があり、喫緊の課題の一つでした。
現場でこのような状況に直面したこと、今後改善していくために必要な情報がほとんど残っていなかったことに、大きな衝撃を受けましたが、それと同時に、コンダクターとして、今後現場運営・改革を推進していく上で、この問題を解決し、選手の皆様のためにも何とか変えていきたい、そう強く考えていました。
さらに、決して問題ばかりではなく、選手やスタッフの皆様からの、「とてもおいしい」という声は確かであったことから、これまで評価をいただいて、選手の皆様に愛され親しまれてきた食事そのものは、大切に受け継いでいきたいとも感じていました。
旧寮から引っ越して大きく変化したことを整理すると、大きく4つに分かれると感じます。
環境改善のために、まず初めに行ったことは、安全・衛生講習会です。引っ越し後、若獅子寮の社員・パート全員が集まり実施しました。これまで、旧システムのまま行ってきたことを、皆で見直し、新体制に向けて衛生環境を改善するための準備をしました。運営を進める上でわからないことは都度確認し、ひとつずつ説明しながら行っていきました。
引っ越し後、旧システムから、改善したことは以下の内容です。
・温度管理ができるよう、設備・備品の環境整備
・衛生ルールの再確認・都度周知
・食事の提供時間を決め献立通りに提供
・アレルギー該当者の再確認と対応、表示
・ケータリング用保冷車の導入
・ユニフォームの改善
旧システムから多くの変化がある中、様々な問題も立ちはだかりましたが、少しずつ理解を得ながら改善を図っていくことができました。
写真①:おかず提供レーン 写真②:サラダ提供レーン
写真③:ご飯・カレー・汁物提供レーン
写真④:おかず提供レーン 写真⑤:サラダ・フルーツ提供レーン
新若獅子寮になってからは、厨房内の設備、システム、使用する食器、スタッフの服装までも、とにかく全てが一新されました。それに伴い、新しい機器の使い方や管理法と、様々な方面で問題や疑問が発生し、これまで何十年も馴染みのあるスタイルから、急に新しい体制に変化したことに対して、戸惑いや不安、受け止めきれない気持ちが生まれ、現場スタッフに多くの混乱が生じていました。
そんな混乱の中、現場スタッフを支え、混乱から救ってくれたのは、主任・副主任の一声です。
「見切り発車でもいいから、やってみようよ!」
困難を乗り越えるにはどうするのか?を考えた時に、必要なものは何だったのかと振り返ってみると、とてもシンプルなことですが、どうしようかと悩む、あれこれ話し合うことも重要なのですが、一番のポイントは、まずはやってみる「チャレンジ精神」であったと感じます。全てが上手くいかなくても、スタッフ皆で協力し、いろいろ挑戦してみて、初めてわかることもあり、やってみた先に新たな発見があることも分かりました。
私自身も、「球団様が求めることそのものは、選手の皆様にとって必要なことで、パフォーマンスに影響するとても重要なこと」と捉えていました。だからこそ、最初から出来ないからやらないではなく、「どうやったら実行出来るのか」を第一に考え、依頼があったことはなるべく実現できるように動いていました。
また、今後新体制で仕事をしていく上で、皆が気持ちよく働けるよう、常に気持ちが通じるように、信頼関係の構築や気遣い、思いやりを一番重要視して、現場調理師・パート従業員とともに励んでいこうと思いました。
これまでの食事提供スタイルは、朝・昼・夕の3食、すべてバイキング形式での提供でした。球団管理栄養士様からのご提案のもと、摂取するもののコントロールをするためにも、朝食・夕食は定食スタイルに変化し、主食・主菜・副菜・汁物・フルーツがトレーセットされました。
写真⑥:トレーセット ※2020年1月時点
また、選手の皆様の喫食状況や摂取量の記録を実施し、次回献立作成の際、改善に反映できるよう記録化しました。
こちらの内容は球団様や球団管理栄養士様とも共有し、選手の皆様について気になったことも併せて日々報告しています。
新体制では、球団様からの予定や選手の皆様の体調変化にも、柔軟に臨機応変に対応ができるよう求められました。引っ越し前の旧体制では、スピード感を持って、球団管理栄養士様との連携が取れる状態ではありませんでした。
現場調理師から、献立内容や選手の皆様からのご要望等の意見交換の機会を得られず、四六時中忙しく仕事をしていたり、ゆっくり話ができる時間の確保も難しかったことも背景にあり、その課題解決の目的もあって私たち管理栄養士・栄養士の配属に至りました。
新体制になってからは、常に球団様からの連絡を受けられるよう、会社からパソコンやスマートフォンを支給していただき、ネットワーク環境が整えられ、大切な連事項絡は、即栄養士に伝えられ、その内容を現場に伝達するフローができ、これまでは、連絡一つ伝達するのに苦労していたところが、クリアになりました。また、ソーシャルネットワークアプリも活用し、事務所にいなくても、いつ・どこにいても連絡が取れるようなツールも活用しています。
気になることがあればすぐに聞ける、報告ができる、そんなスピード感のあるネットワーク環境・コミュニケーション体制も今回の食事改革を加速させたと感じています。
食事改革に伴い、旧寮では事務仕事のみだった栄養士の動きや役割も大きく変化しました。
参考に、以下の通り業務内容を整理してみました。
【参考】若獅子寮における、栄養士の主な業務内容
・朝、昼、夕、夜食提供・喫食記録対応
・1軍試合前、試合中(ベンチ裏)、試合後(希望者のみお弁当対応)の食事提供
・療養食対応(提供時は、使い捨て容器を使用。喫食後の容器処分は球団側に依頼)
・アレルギー対応食の運営
・暑熱対策を目的とした保冷車やフローズンドリンク提供体制の構築
写真⑦:フローズン ※2019年8月時点
・安全衛生管理 …など。
これらの内容は、給与栄養目標量も含めて、全て球団管理栄養士様のマネジメントを基に綿密な連携を図り、運営マネージャーならびに当社スポーツ栄養アドバイザー(筑波大学:清野隼先生)との高頻度な情報共有も行った上で、球団様とフジ産業双方の意思決定を迅速に実現した中で実施していくことを心がけています。
【1日のタイムスケジュール】
見た目も中身も一新された食環境ですが、選手の皆様からも、おかげさまで、「コンディションに応じた食事選択ができるようになった!」「ホーム試合の方が調整しやすい!」という主訴が得られました。
写真⑧⑨:喫食風景 ※オープン直後 2019年7月
また、他球団の担当者様が新食事提供スタイルの視察に訪れた際には、非常に感銘を受けて驚いていたと嬉しいお声もあり、球団様からは選手の皆様の教育体制強化に向けた新たなご要望を得ることもできました。
そして、新規立ち上げから運営基盤構築がなされ、球団様における食・栄養に対する強化方針も示していただくこともできました。
食事改革が実現した要因の一つには、会社の大きなバックアップ体制と、球団様ならびに会社の定期ミーティング(その中での球団様からのご指導・助言)や、清野先生のワークショップやフォローアップなど、多くの方々のご協力と共創がありました。こうした連携体制・環境があったからこそ実現できたことに、とても感謝しています。
また、個々で働くのではなく、現場における励まし合い、スタッフ間の協力・理解、チームで働くという意識があったからだと強く感じています。
引き続き、さらに良い環境を創るべく、皆が意見し合える環境づくりをするとともに、今後の課題としては、安心・安全な現場運営はもちろんのこと、充実した食環境の提供だけではなく、さらにステップアップした、球団関係者の皆様、そして栄養面を全面的にサポートしている球団管理栄養士様のお二方とともに、選手の皆様の行動変容へのアプローチも視野に入れた運営体制を検討することです。
この次に、どんな展開が待っているのかにも期待しながら、スタッフ一丸となって今後も励んでいきたいと思います。
次回の後編のコラムでは、新寮に引っ越ししてから、いよいよ運営を開始していく中で、独自で取り組んだことやシーズン後半の取り組み、さらに2020年度シーズンに向けた新たなサポート内容の検討など、書き記していきたいと思います。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございました。
2019年入社。CFS事業本部 東京支店所属 管理栄養士
埼玉西武ライオンズ若獅子寮にてファーム選手への
栄養サポート業務に従事。主な業務内容は食事提供、
献立作成、栄養情報POP作成、1軍選手へのケータリング対応など。