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Withコロナにおける食と健康
2020.10.09
コラム
投稿者:木下 水信
今回は、「食と医療のコラボレーション」について、私の知見をお話しさせていただいます。食と健康とは密接であることは明白な事実で、私より皆さんの方が知識と経験をお持ちかと思います。ただそれが健康にどれだけ寄与するのか、それがどのように健康に影響するのかは、一般的なことが分かっていても、例えばその人にあった食事まではなかなか提案することは難しいのが現状かと思います。
生活習慣病の方に対しては、高血圧の人には減塩、糖尿病の方には低カロリー食などを勧めますが、なかなか理解して順守される方は多くはありません。また今後超高齢化社会を迎える日本にあたっては、認知症やサルコペニア、フレイル、ロコモなど、いわゆる筋力低下における高齢者の社会問題があって、高たんぱく質な食事を中心とした食の提供を考えていなければなりません。ただ食だけ解決するわけではなく、運動も取り入れていかなければなりません。
医療のいけないところ、また反省するところとしては、医療は治療することで成り立っていて、今まで予防や未病にあまり取り組んでこなかったことがあります。昔から批判されていることですが“患者の薬漬け”問題がまさにそうです。いまの医療制度ではいくら予防や未病に積極的に取り組んでもあまり医療機関の収益にならず、手っ取り早く薬を出した方が簡単で儲かる仕組みになっています。したがって医療は患者が病気でいてくれている方が全体的に収益を上げることの出来る構造になっています。
但し、それが健全な社会とは到底思っておりません。私が治療する側から予防や未病の世界に入ったのは、そういったことがきっかけでしたが、ただ残念ながら10年前と今とで何も大きくは変わっていません。変わったのは、生活習慣病患者の増加、超高齢化時代への突入で、待ったなしという状態となったことです。
余談ですが、皆さんあまりご存じないかもしれませんが、昨年12月にこんな法律ができましたが、ご存じですか?「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他循環器病に係る対策に関する基本法」という長ったらしい法律です。
簡単にいうと「脳卒中・循環器病対策基本法」という法律が施行されました。その内容は、①国民の責務として禁煙、食生活、運動、肥満などに注意して循環器病の予防に積極的に取り組むよう努力すること、②自分や家族が脳卒中や心筋梗塞など発症したときは迅速かつ適切に対応するよう努力すること、③地方公共団体は救急の受け入れ体制をしっかり整備すること、④医療保険関係団体(企業を含む)は循環器病予防の啓発、知識の普及に取り組むこと、というのが内容です。簡単にいうと、禁煙のみならず、食べ過ぎ、太り過ぎも法律違反ということになります。また循環器疾患は予防ができるので、予防は国民の責務であり、国はもう面倒見ませんよ。という法律のようにも解釈できます。罰則規定はありませんが、何も対応しないと法律違反です。ちょっと大変なことになりました。
したがって健康の保持とその増進のため、食は重要な位置を占めます。医療との食のコラボレーションが必要といったのはそういう意味でもあります。血圧や糖尿病などの生活習慣病の予防、また実際に高血圧症や糖尿病になっている方、さらにリスクが高い高齢者などの脳卒中や循環器病対策が急務です。ただ塩分控えめや低炭水化物の食事をと唱えているだけではなく、その効果をみて本格的に結果を出していかなければなりません。医師も薬の投与など治療だけに偏重することを捨て、予防・未病対策をしないといけないのと、食に携わる方も医療とタイアップしてフィードバックを受けながら、その人にあった食事指導をしなくてはなりません。
現在、食と医療とのパイプやチャンネルは少なく、しいて言えば特定健診・特定保健指導くらいです。ただこれも3期目を迎えていますが、医療費削減を目指した効果はそれほど認められていないのが現状です。国の一辺倒な指導では響かないということで、地域や職場でそくした生活習慣指導が大事だと現在叫ばれています。各自治体で成果が報告されるようになりましが、効果をあげるにはやはり心に響く指導が必要だそうです。ただ定型的な言葉だけではなく、その人の客観的な数値あるいは健康状態を把握して、わかりやすく理解してもらうことが大切だということも述べられています。
コロナ禍で、長時間対面での指導が難しくなったことや、予算の関係で人的リソースが割けない状況が続き、またコロナ禍で病状が悪化した方が多い中、新しいアプローチが必要とされています。ただまだその答えはみつかっていません。そこも皆さんが考える、また何か変えられる余地があるところです。今後増えるであろう病気に対して、食サイドから情報を発信しつつ、食がいかに健康に寄与するかという視点で食育を行っていってほしいというのが医療サイドからのお願いです。
医療も岐路に立たされています。今後迫ってくる超高齢化時代により医療費が国家予算を超える日が近づいており、また健康保険組合の20%が解散の危機にあるなかで、日本としてはいかに質の高い医療を維持していくか皆で考えていくことが肝要で、もう待ったなしの状況です。
前のコラムでも書いたように、皆さんは食を通じて健康を支えるエッセンシャルワーカーです。ますます重要な存在であることは間違いありません。お互い知恵を絞って前を向いていきましょう。
次回は「食と運動の結びつき」について、お話しさせていただきます。
医療法人尚仁会
名古屋ステーションクリニック理事長
1993年近畿大学医学部卒業後、近畿大学医学部付属病院、東北労災病院にて外科医としてのキャリアを積み上げ、1995年国立がんセンター中央病院で癌を専門とする外科医として勤務。
1999年名古屋医療センターで主に消化器外科胃癌の内視鏡技術認定という当時数十人にしか日本にいなかった資格を取得。
2007年医療法人尚仁会名古屋ステーションクリニックを健診専門施設として開設。
2010年医療法人尚仁会名古屋ステーションクリニック理事長に就任。