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食べる人に寄り添う社食

まず、私が会社に入社し、社員食堂でお昼を食べるようになったところからお話しさせて頂きます。
1981年に、外資系電子精密機器の会社の本社工場に入社、配属され製造系の間接部門に通うことになりました。8時10分に始業、12時になるとチャイムと共に、工場から食堂のある別棟へ食券(確か140円だったと記憶)を1枚持ってダッシュで向かうのが日課でした。
1,500人くらいが在籍する事業所でしたが、7〜8割が喫食していました。メニューは定食が2種で、麺が蕎麦とうどん、それとカレーがありました。社内に運動部もあり、工場系で働く若者は、ほぼ全員が給食会社の給仕の方へ「大盛で!」と注文していたものです。あの頃は、ご飯が大盛の定食が140円で食べられたこともあり「幸せだったなぁ」と思わずにはいられません。

食べる側から、食べてもらう側へ

1988年には、製造部から総務部へ異動となり、まず最初の仕事が厨房機器の固定資産の棚卸しでした。
ここから、本格的に私と社食との関わりが始まりましたが、実は厨房機器や飲食系とは無縁ではなく、子どものときから関わりがあったのです。私の母親の実家が飲食業だったこともあり、祖父から「子どもでもここへ来れば仕事はあるしお小遣い稼ぎにいつでも来い!」と言われ、よくお店の厨房に手伝いに行っていました。この経験があったので、大体の厨房機器の名前と現物がすぐに一致し、前任者からの引継ぎもすぐに終わってしまうほどでした。

さて、本題の「食べる人に寄り添う社食」についてですが、30年間の会社員生活の中で何社もの給食会社様ともお付き合いを経験しました。そんな経験からクライアント企業側の立場で給食会社様にお願いしたいことがあります。
「社員食堂=企業内給食」という観点から考えると「食べる人がどんな仕事をして、どれだけお腹が空いているのか?」「好きなものは何か?」「今日の朝は何を食べたか?」そして「夕飯は何を食べるのか?」そういったことまで考えて初めて「寄り添う」と言えると思います。

社食はレストランと違い、自分で食べるものの選択肢が極端に狭く少なくなる世界です。ですからなおさら、給食会社の方にはその点を考慮して頂きたいのです。大量調理であればなかなかすべての料理が温かいもの、というわけにいかないこともあるでしょう。でもそこで、「寄り添う」という気持ちがあるなら、「どうすればできるだけ温かい状態で提供できるか?」といったことを絶えず考えて欲しいわけです。おかずは無理でもご飯やお味噌汁だけでも温かく提供する、といった工夫をして頂ければと思います。

味という観点でも同様で、社食では老若男女食べる人がさまざまであることから、レシピで決められた調味料をそのまま入れる、ということについても一度見直して、社食で食べる人たち(社食担当窓口社員や給食懇談会・委員会などの人たち)に意見を聞いて欲しいのです。たとえば料理を作っている方々は、暑い中厨房内で調理をしているわけで、体は汗をかいて塩分を欲している状態ということもあります。そんな中で味見をすると、どうしても調理している方の好みの濃さになってしまいます。私は何度も社員食堂を開設したりリニューアルに携わっており、その都度、この点について何社もの給食会社の方々にお願いしてきました。

たとえば味噌汁は出汁からの味付けを基本として味噌の量を社員の好みに合わせてもらい、ラーメンなどは、塩分をそれぞれ3g、5g、7gのものを試作してもらい、懇談会の席上で「どれを社員が好むのか」を実際にクライアント側の社員に選択してもらうのです。そして「◯gにする」と決めたら、いくら調理長が味見の際に「薄い」と思っても味の調整をしない、ということを約束をしてもらっていました。たまに、社員から「高山さん、きょうのラーメンのスープ、濃くなかった?」と聞かれることがあり、調べてみると、その日は他の事業所からお手伝いの調理師さんが来ており味の調整が入ってしまった・・・ということもあったので、スープを作る工程に大きく注意書きを貼ったりもしました。

「これこそ、プロ」と思わせられたパートさん

更に「食べる人に寄り添う社食」となると、私が体験した中で、あるラーメンコーナーのパートさんの話をご紹介しましょう。

 

私が会社員時代、最後に開設した社員食堂は、メインを12-3種の中から選ぶという社員レストラン風の社食でした。ある日社食の支配人に「今日は、俺に何を食べて欲しい?」と聞くと、「本日は『しびれから麺』を是非」と言われました。そこでラーメンコーナーへ行くと既に5-6人が並んでいます。もともと「5分くらい待ってもいいから温かいものは温かく提供して欲しい」と給食会社に依頼をしていたので、社員も5分程度並ぶことに抵抗がない状況でした。私が列に並び待っていると、前に並んでいる人数が二人になった時、ラーメンコーナーのパートさんが、その二人に突然「すみませんが、後ろに硬麺の方がいらっしゃるので、お先にお出ししますが、お許しください!」と言って、私に目配りが飛んできました。私が硬麺が好みだということを、このパートさんは覚えていたのです。そして私だけでなくラーメンコーナーに来る社員の好みを覚えており、硬い、柔らかい、濃い、薄いなどの好みを覚えているわけです。「これこそ、プロ」と感心しました。

 

もちろん、何か所もあるコーナーを毎日同じパートさんが担当する場合だけでないと思いますが、各コーナー担当のパートさんには「丼ぶりコーナーの人は、きょうは丼ぶり屋さんの主人であり、ラーメンコーナーの人は、ラーメン屋さんの店長であり、それに合わせた声かけや目配り気配りをして欲しい」とお願いしておりました。
昨今の状況ですと、なかなかお客様との提供口での直接的なコミュニケーションは難しいかもしれませんが、是非、気持ちだけでも、食べてくれる社員さんのことを思って接して頂けることが、「食べる人に寄り添う社食」に近づける一歩ではないでしょうか?

 

 

髙山源一(TAKAYAMA GENICHI)
日本ヒューレット・パッカード元総務部長

35 年半の勤務のうち 30 年以上にわたり食堂運営に携わり、15年間総務部長として活躍。 メディアからも多数取材され「社食の神様」の異名を持つ。2021年より社食ドットコムアドバイザーとしても活動中。

 

 

 

 

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