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時間栄養学

1 時間栄養学とは

時間栄養学は、体内時計と食・栄養の相互作用を調べるので、(1)食・栄養が体内時計の位相に与える影響(朝食のリセット効果など)と、(2)体内時計が食・栄養の効果に与える影響(夕食時のカルシウム吸収増大など)がある。図1は全体像をまとめたもので、以下に解説する。

2 食事による体内時計リセット効果

まず(1)の視点について記述する(図1の①)。食・栄養がラメルテオン(メラトニン受容体作動薬)やデキサメタゾン(副腎皮質ステロイドホルモン)などの薬物と同様に、主時計や末梢時計をリセットできるか否かということを考える。これまでにわかったことでは、ヒトでもマウスでも食事の刺激は主時計のリズムに影響を与えないが、末梢時計の体内時計をリセットできる。1日3食とした場合にどの食事に同調するかという問いに対しては、一番長く絶食した後に取る食事すなわち朝食(breakfast=破る(break)絶食(fast))が重要であることを報告した。したがって朝食欠食で昼から食事を取る人は末梢時計のリズムは遅れながらリセットされる。夜遅く食べる人の事を考えたマウスモデル研究で、朝(7時)と昼(12時)は5時間空けるが、忙しくて夕食を取る時間がなく、昼と夕食を11時間ほど空け(昼食は12時、夕食は23時)、夕食から朝食は8時間にしたところ、昼食と夕食の間が一番長く絶食することになり体内時計は夜の23時の夕食を朝食と勘違いしてリセットされ、つまり夜型を引き起こすことが分かった。そこで、このような生活習慣は良くないということで、夕方の17時に夕食の半分を食べ、残りを23時に食べるように分食を行ったところ夜型化を解消した。したがって、ヒトの生活パターンでも、夕食が遅い人は体内時計の遅延化を防ぐためにおいて分食が良い。

このように考えると、朝食欠食は体内時計を朝型にリセットできないことになる。ヒト試験で、点灯と消灯は7時と23時に固定し、食事時間を7時、12時、17時の場合と、12時、17時、22時の2条件で、主時計をメラトニンの分泌リズムで、末梢時計を皮下脂肪の時計遺伝子発現リズムで評価した。その結果、主時計は明暗条件を変えていないので食事時間の変更の影響を受けなかったが、末梢時計は5時間の食事時刻の後退に対して1-1.5時間ほど位相が後退した。つまり、朝食欠食では、例えば学生では1時間目は体内時計が十分に目覚めさせないので、低体温でボーっとしているが2時間目から機能し始めることになると思われる。

朝食の食事内容に関しては、でんぷん質の分解による血糖値上昇に伴うインスリンの分泌やタンパク質食のIGF-1(インスリン様成長因子1)分泌が重要である。また、水溶性の食物繊維は短鎖脂肪酸の産生を通して、魚油のDHA/EPAはGLP-1を介した作用で、体内時計のリセットにかかわっているので、これらの食材も朝食におすすめである(図1の①)。また、小中高生でも成人でも、朝食は、和食、交互の和洋食、洋食、シリアル食、欠食の順で、和食が最も早寝早起きであり、また朝食のタンパク質源に多様性があった(図2)。

3 投与時間の違いによる食・栄養の効果の差異

次に(2)の視点について記述する(図1の②)。生体には体内時計が時間管理を行っており、種々の代謝機能や生化学反応には時間制御があることは十分に考えられる。食・栄養も生体に入ると、薬物と同様に生体と相互作用をする。例えばタンパク質を摂って、それが筋肥大に寄与する場面を考える。胃・腸での酵素分解、腸管からのアミノ酸やペプチドとしての吸収、血液の循環速度による筋肉への輸送、筋肉での筋合成と分解、アミノ酸の窒素成分の腎臓での尿素としての排泄、といったプロセス(吸収、分布、代謝、排泄)が重要であるが、これらのプロセスの各ステップに体内時計の制御が深く関わっていることが分かっている。また、朝食と夕食と単純に考えてみても、今から活動的になる前の食事と、今から寝ようとする前の食事では意味が違うだろうと、だれでも想像できる。例えば、全く同じ内容の食事を朝食で摂ると、夕食で摂ったときの血糖値に比較して緩やかでインスリンの分泌は少なくて済む。夕食の場合は、インスリンの効きが悪く、高血糖が続き余分で消費されない高血糖は脂肪合成に回される。

朝食欠食が肥満の危険因子であることは疫学調査で良く分かっているが、ヒトの介入試験で、先に類似したモデルの朝食欠食で4時間遅れの食事をすると食欲や脂肪合成が増大するが、一方、体温や代謝が落ちるので肥満になる可能性が報告された。現在、トクホ製品や、機能性表示食品などは、摂取時刻の事は記述できないとされているが、時間栄養の視点で考えると、生体と相互作用する食品成分が機能を発揮するには適切な摂取タイミングがあると考えるのは想像に難くない。脂溶性の食品は朝の胆汁分泌が良いことと一致して朝の吸収が良いので、リコピン、DHA/EPA、セサミンなどは朝投与の方が効果的である可能性が知られている(図3)。また、図3には他の食品成分の朝・夕のいずれが効果的であるかという点も記述している。

国民栄養調査でも、食事管理アプリ「あすけん」の登録者のデータでも日本人の朝のタンパク質摂取は少ないことが分かっている。20-70歳の女性約1万人のデータではタンパク質の摂取量は朝が約15g程度と低く、昼が20g、夕が25gと増え、間食が6g程度である。サルコペニア予防など、筋量維持には0.4g/体重Kg(1食当たり)であるので、50Kgの人は最低20g程度を毎食に摂ることが推奨されている。マウスのタンパク質投与実験で、朝に多い群は均等や夕に多い群より筋肥大効果が強かった(図4)。高齢者のヒトの調査研究で、朝食にタンパク質を多く摂る人は筋量が多く握力が高く、高強度や全体の身体活動も高かった。高齢者女性に3ケ月間10gのミルクタンパク質を朝食に介入する群は夕食に介入する群より筋量が多かった(図5)。高齢者の握力低下の8年間の観察研究で、朝のタンパク質摂取が多い人は低い人に比較して握力低下の危険率が半減するという報告もある。

最近血圧と食事内容に関する調査研究を行った結果、昼間のカリウム摂取不足や、Na/K比の大きさが収縮期血圧と正の相関を、夕食のエネルギー、脂肪、飽和脂肪酸、アルコール摂取が収縮血圧と正の相関を示した。つまり、高血圧予防には昼食のカリウム補給のために野菜や果物の摂取が勧められ、夕食は動脈硬化防止のため動物性の脂質を避けるのがよい。

 

 

柴田 重信(しばた しげのぶ)
広島大学 大学院 医系科学研究科  特任教授

マウス、ヒトを研究対象として、体内時計と健康にかかわる分野の研究を行っている。
特に、薬や食・栄養、運動のタイミングと肥満との関係の研究、あるいは、シフトワークや時差ボケと体内時計の関係やその軽減方法の開発などの研究をおこなっている。

 

 

【書籍】
脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい  講談社α新書 2022年
食べる時間でこんなに変わる時間栄養学入門 ブルーバックス、講談社2021年
時間栄養学、化学同人、2020年、体内時計健康法、杏林書院、2017年
【一般向けの雑誌等】
「『体内時計』が老化を止める 睡眠・食事・運動の最適時間」週刊ポストGOLD p.56 2022年12月21日 小学館発行。『薬を飲む時間』を間違えると死にます」週刊現代 第64巻 第34号  p.142-145 2022年12月21日 講談社発行。「目からうろこ!『食べる時間』で寿命が決まる」週刊現代 11月12日号 第64巻第32号 p.140-141 講談社 2022年11月発行。「朝ごはんが最重要」安心11月号 第40巻 第11号 p.68-78 2022年9月 マキノ出版発行。『時間栄養学』に学ぶ肥満や病気を防ぐ食べ方」清流11月号 第29巻 第11号  p34-37  2022年10月 清流出版発行。「時間栄養学」mom10月号  vol.378  第42巻 6号 p.34-35 2022年10月  など他多数

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