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「日本食品標準成分表」とは?

人が健やかに暮らす要因の一つは,望ましい(適切な,調和がとれた)食生活です。それを,支えるものの1つが食品成分のデータベースである食品成分表です。食品成分表を理解し適切に活用すると,栄養管理業務や食育活動等を科学的に実践できます。このシリーズをご覧いただき,食品成分表を楽しく使っていただくコツをお伝えしたいと思います。

1.食品成分表

食品成分表は,世界各国でその国の人々が食べている食品(常用している食品)のデータ集として作られています。食品成分表は,食品100gに含まれているエネルギーおよび栄養素の量を一覧表として示したものです。つまり,食品のエネルギーや栄養素量を評価する基準,「物差し」として策定されています。小学生だった頃,食品成分表を見て,お茶碗1杯や,魚一切れ当たりの値でないことが不思議だと感じませんでしたか。このような感覚の大人もいらっしゃるかも知れません。
食品成分表は,その国の人々が利用している食品の変化,栄養学・医学・食品学の進歩等に伴い改訂されています。そのため,最新の食品成分表をみると,現在,その国で食べている食品のエネルギーや栄養素量がわかります。

2.日本の食品成分表

日本の食品成分表の正式名称は,「日本食品標準成分表」です。昭和25年(1980年)に初版が日本食品標準成分表として公表されました。最新の食品成分表は,冊子形式では2020年に公表された8回目の改訂版である「日本食品標準成分表2020年版(八訂)」(以下,成分表2020)です(QRコード1)。さらに,2023年には「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」(以下,増補成分表2023)が文科省のHPで電子版のみの公表となっています(QRコード2)

QRコード1

QRコード2

 

 

 

 

写真は,初版から八訂までの食品成分表の表紙です。本のサイズ,厚みも変化しています。国立国会図書館に行くと全てを見ることができます。本校にもあるのでご興味があればお声がけください。

写真1.食品成分表(初版から八訂まで)の表紙

3.日本食品標準成分表を理解するための重要なWord:「標準」と「改訂」

3-1.「標準」

「標準」は,その成分表が公表された時点での日本人が常用している食品の標準的な成分値という意味です。常用している食品は,時代に応じて変遷していることがあります。
例えば,でんぶは,日本食品標準成分表2015年版(七訂)(以下,成分表2015)では,「茶でんぶ」,「しょうゆでんぶ」の別名をもつ,「佃煮のでんぶ」が収載されていました。成分表2015では,「別名: たら、そぼろ、おぼろの」なので,桜でんぶとして利用していた方も多かったと推察されます。そこで,成分表2020では,常用しているでんぶとして,ちらし寿司などで用いる「桜んぶ」が加わり,これまで収載されていた「でんぶ」の備考欄が修正されました。「でんぶ」と「さくらでんぶ」の主な成分を比べると(図1)。「さくらでんぶ」は,「でんぶ」に比べ,甘く水分と食塩が少ないことがわかります。
一方,米,野菜,果物などの原材料食品は,品種が食品成分表の改訂に伴い変化している場合があります。そのため,食品成分表の改訂版が公表されたら,常用している食品が変わっていたり,加わったりしている可能性があるので,最新版の成分表を使うことが科学的根拠に基づく栄養管理や食育に役立ちます。

図1.でんぶと桜でんぶのエネルギーと主な成分値(/100g)

 

3-2.「改訂」

改訂と改定,どちらも読みは「かいてい」です。「改訂」は「内容の一部に手を加えて改めなおすこと」,「改定」は「改め定めること,直して新しくきめること」です。
日本食品成分表では,最新の成分表を基礎データとして検討し,改めるべき成分値があれば変更し,追加すべき食品があれば追加するなどを行い,最新の成分表を「改訂」した成分表を策定してきました。日本食品成分表は,公表されるとすぐに,次の成分表のための「改訂」作業に入っています。そのため,食品成分表は,初版から成分表2020まで改訂を繰り返し策定されている継続性のある食品成分データと言えます。

4.初版から増補成分表2023までの収載食品と成分項目の変化

4-1.「収載食品」

初版から成分表2020までの食品成分表の収載食品数を図2に示しました。四訂成分表の食品数は,日本人の食生活が豊かになってきたこと等を反映し改訂前の成分表に比べ最も増加(185%)しています。肉類(四訂成分表では獣鳥鯨肉類)は部位別に細分化,魚介類では調理した食品(焼きと水煮)も追加,野菜類でも調理した食品(ゆで)を追加,調理加工食品類を追加するなどによる増加です。また,四訂成分表は,初めて収載食品について個別に解説した成分表です。そのため,三訂日本食品標準成分表(以下,三訂成分表)は1cm程度の厚みでしたが,四訂成分表3cmの厚みになりました(四訂成分表は,当時の電話帳が,この程度の厚みだったので,電話帳の愛称もありました)。

図2.日本食品成分表の食品数の変遷

4-2.「収載成分項目数」

初版から成分表2020までの成分項目数を図3に示しました。五訂成分表は,改訂前の成分表に比べ最も成分項目が増加した成分表です。この成分表では,栄養学や分析科学の進歩等により,多くの栄養素の収載が行われることになりました。
食品成分(栄養素)の分析方法は,成分表の改訂に伴い変更されているものがあります。それは,できるだけ正確な値を知るために,精度の高い分析方法に変更されるからです。また,計算による値であるエネルギーやレチノール当量やα-トコフェロール当量は,計算方法の変更により変更されてきました。これは,研究の結果,身体の中で利用される量が変わったためです。

図3.食品標準成分表の収載食品数の変遷

5.日本食品標準成分表2020年版(八訂)

成分表2020は,基本の成分表に加え,「成分表2020 アミノ酸組成表偏」(以下,アミノ酸表2020),「成分表2020 脂肪酸組成表偏」(以下,脂肪酸表2020),「成分表2020 炭水化物組成表偏」(以下,炭水化物表2020)の3冊の組成成分表がセットとして公表されています(図)。これらの4冊は,食品番号が同じであれば同じ食品についてのデータです。そのため,成分表2020では,1つの食品の成分データとして約150個(本編と組成成分表の表頭を合計)の成分量を知ることができます。

図4. 4冊の成分表の関係(イメージ図)

6.「成分表2020」および「増補成分表2023」の入手

6-1.原本(一次資料):報告書としての成分表

成分表2020および増補成分表2023は,文部科学省のHPから入手できます(QRコード1,QRコード2)。成分表2020および増補成分表2023は,それぞれ基本の成分表に加え,「アミノ酸組成表偏」,「脂肪酸組成表偏」「炭水化物組成表偏」の4冊セットでダウンロードできます(成分表はExcelファイルです)。また,このページには「正誤表」等もアップされています。
栄養管理や食育活動では,正誤表を反映した成分表(栄養計算ソフト)を利用することが肝心です。文部科学省のこのサイトでは,成分表2020公表以降に,正誤表や分析マニュアルをアップし,成分表のフォローを続けています。時々確認してみましょう。

6.2.出版社が編集している成分表

一次資料としての成分表2020および増補成分表2023は,食品成分データとして策定されているので,栄養管理や食育活動などの実務でスムーズに使うためには,目的に応じた編集が必要です。そこで,出版社は編集を行った実務用の成分表を策定しています。各社の成分表を比較し,あなたにとって使い勝手の良い成分表を使いましょう。選択する基本は,最新の成分表を使って作成されていることです。
写真は,代表的な成分表です。3冊とも栄養計算ソフトが付録についています。それらの栄養計算ソフトは,最新版の成分表を実務用に編集した成分表をデータベースにしているので,それぞれ便利に利用できます。

 

写真2.実務で使うために編集された日本食品成分表

7.おわりに

食品成分表を栄養計算ソフトだけに頼っていると,食品の個別の情報や食品の別名を見逃してしまうことが多々あります。お手元の書籍の食品成分表が,成分表2020あるいは増補成分表2023に準拠して編集された成分表であることを確認し,あなたが常用している食品を探して備考欄を読んでみましょう。きっと,新しい発見があると思います。

 

 

渡邊 智子(わたなべ ともこ)
東京栄養食糧専門学校校長。博士(医学)。

千葉県立衛生短期大学、千葉県立保健医療大学、淑徳大学を経て現職。
千葉県立保健医療大学名誉教授、千葉県学校保健学会理事長、産業栄養指導者会会長。

文部科学省による日本食品標準成分表の策定に食品成分委員会委員等として30年にわたり携わり、成分表活用の研究・提言を行なう。千葉県食育推進県民協議会委員として千葉県の食育ツール(グー・パー食生活ガイドブック等)の開発・普及も行なっている。
著書に「食事設計と栄養・調理」(南江堂)。ちば型食生活実践ガイドブック(千葉県)。『これだけは知っておきたい!「食品成分表」と「栄養計算」のきほん』(講談社)ほか。現在,「女子栄養大出版部WEBマガ「食品成分表」連載中。

 

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