最先端の業界情報を
発信するメディア

健康経営と給食の深い関係

人生100年時代に生涯現役で生き生きと暮らすために

現在の日本では、高齢化の進展とともに、人口が減少、特に人口減少を上回る生産年齢人口の減少がおきており、各産業において人手不足が課題になっています。

人生100年時代となり、社会全体でwell-beingを目指す中、健康な状態で長期間経済活動を継続できる、すなわち生涯現役で社会参画していくことは、生き生きと暮らせることにつながると考えられます。そのためには健康寿命の延伸が重要とされています。健康寿命の延伸には、寿命の伸び以上に健康で生活できる期間を延ばすこと、すなわち寝たきりの期間を短くすることが必要となります。寝たきりにならないためには、生活習慣病等の発症、或いは重症化の予防、介護予防が大切です。

)より引用

健康経営とは

企業において、健康や体力に課題がある従業員が多いことは、労働生産性の低下につながり、それらは経営リスクにもなりかねません。医療費等の負担も増えます。それゆえ、利益の追求だけでなく、「企業が従業員の健康に配慮することは、経営面においても大きな成果につながる」との考え方で「健康経営」が注目されるようになりました。「健康経営」は従業員の健康の保持・増進に戦略的に取り組み、健康管理に投資していくことを指しています2)。単に医療費という経費の節減のみならず、生産性の向上、従業員の創造性の向上、企業イメージの向上等の効果が得られ、かつ、企業におけるリスクマネジメントとしても重要と考えられています。経営理念に基づき、従業員の健康保持・増進に取り組むことは、従業員の活力向上や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績向上や組織としての価値向上へ繋がると考えられています。それゆえ、経営者には従業員を人財と考え、健康管理に投資することが期待されています。

 2)より引用

 1)より引用

健康経営の評価指標

経済産業省では顕彰制度を通じて優良な健康経営に取り組む法人を「見える化」し、社会的な評価を受けられるようにしています。健康経営優良法人として認定されると、「ホワイト500」「ブライト500」といった冠を付加されます1。これによりロゴマークが使用でき自治体や金融機関において様々なインセンティブが得られるメリットがあります。健康経営度調査への回答に対する審査によって認定されます。健康経営度調査は①経営理念・方針、②組織体制、③制度・施策実行、④評価・改善、⑤法令遵守・リスクマネジメントの5項目から成り立ちます3)。この中の③制度・施策実行は、保健指導、具体的な健康保持・増進施策、感染症予防対策、禁煙対策の4つに分類されています。このうちの健康保持・増進施策の中には「食生活の改善に向けた取組」があり、具体的に「社員食堂・仕出弁当、現物支給、金銭補助等を通じて健康に配慮した食事(専門職が栄養管理している、第三者認証を取得しているなど)を健康課題やニーズに応じて摂取できるような環境整備・支援を行っている」「管理栄養士等による栄養指導・相談窓口を設置している」「朝食欠食対策として社員食堂等で朝食を提供している(飲料・栄養補助食品の提供は除く)」といった項目が挙げられています。このように、健康経営の具体的な取り組みに社員の食環境の整備が含まれています。

申請数、認定数は経年的に増加しており、健康経営に取り組む企業は増えています。

食環境としての社員食堂

給食はその利用者が継続して利用するところに中食・外食との大きな違いがあります。たとえ、1日の中の1食であっても継続して摂取する食事は、その人の習慣的なエネルギーや栄養素の摂取に寄与しており、健康へとつながります。栄養・食生活の面から従業員が「自然と健康になれる環境づくり」は、健康経営の具体的な取組といえます。2021年に開催された東京栄養サミットにおいて、日本政府は、健康的で持続可能な食環境整備の推進をコミットメントとして発表しています。これを具体的に推進するために、2024年からスタートした健康日本21(第三次)では、食生活の目標の中に「利用者に応じた食事提供をしている特定給食施設の増加」をあげ、その評価指標を「管理栄養士・栄養士を配置している施設(病院、介護老人保健施設、介護医療院を除く)の割合の増加」としています3)。職場で提供される食事や栄養管理(利用者のアセスメントに基づく食事の量や質、栄養成分表示になどの利用者の食事選択のための情報提供や栄養教育)の改善によって、野菜や果物の摂取量の増加、食塩摂取量の減少、食事の体重コントロール、メタボリックシンドロームの改善などにつなげていくという考え方です。またそれを食と栄養の専門職である管理栄養士・栄養士の配置で評価することになります。すなわち「専門職を配置する=利用者に応じた食事提供をする子で適切な栄養管理を実施しているとみなす」と理解できます。

多数の利用者に満足してもらえるよう、複数の種類の食事が提供され、利用者自ら選べるようになっている社員食堂が多いと思われます。食事の選択の際に利用できるように栄養成分表示や栄養情報の提供も重要になります。リラックスして食事を楽しめる空間の整備も含め、食事とサービスの品質を今以上に高められるような社員食堂の運営が求められます。

 

引用文献

1)経済産業省 健康経営の推進について 2024
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/240328kenkoukeieigaiyou.pdf アクセス日2024.7.3

経済産業省 令和5年度健康経営度調査
chrome-
extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/009_s02_00.pdf アクセス日2024.7.30

2)NPO法人健康経営研究会他 未来を築く、健康経営 2021
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/kenko_iryo/kenko_toshi/pdf/003_s02_00.pdf アクセス日2024.7.3

3)厚生労働省 健康日本21(第三次)推進のための説明資料(その2)
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/content/001158871.pdf アクセス日2024.7.3

 

石田 裕美(いしだ ひろみ)
女子栄養大学 栄養学部長

学歴
昭和58年3月 女子栄養大学 卒業(管理栄養士)
昭和60年3月 女子栄養大学大学院修士課程修了
平成4年3月 女子栄養大学大学院博士後期課程修了 博士(栄養学)

職歴
昭和60年4月 女子栄養大学 助手
平成 7年4月  同      専任講師
平成11年4月  同      助教授
平成17年4月  同      教授 現在に至る

学会・社会活動
日本給食経営管理学会理事長
日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会構成員

あわせて読みたい関連記事