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健康寿命延伸には何が必要?

寿命ではなく、健康寿命をのばしたい

WHOが発表した2022年の世界の平均寿命ランキングにおいて、日本人の平均寿命は84.3歳と第1位でした1)。2位のスイス83.4歳、3位の韓国83.3歳と、2位以下は0.1歳刻みの差でランキングされていますが、日本は2位と約1歳の差があり、断トツで長寿国といえます。平均寿命が把握できた国と地域は183。その平均は72.5歳。ランキングで最も短い国の寿命は50.7歳。このように国によって寿命には格差がありますが、世界全体で見れば平均寿命は延びています。

平均寿命に対して健康寿命という考え方があるのをご存じですか?平均寿命は「0歳時点での平均余命」ですが、これに対して健康寿命は「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」を意味します。命ある限り、自立して生活したい、これは誰もが願うことです。寝たきりになり、生活や食生活が制限されることで生活の質(QOL)は低下します。医療費や介護費など社会保障費の負担も増えていきます。健康寿命を延ばすことは、一人一人にとっても、社会全体にとっても重要であるといえます。

日本人の健康寿命は?

図1に日本人の健康寿命と平均寿命の推移を示します。これを見ると、健康寿命、平均寿命いずれも伸びてきていることがわかります2)。そしていずれも男女間には差があることがわかります。女性の方が平均寿命も、健康寿命も長くてよさそうに見えますが、よく見ると必ずしも良いとは言えないかもしれません。

図2は令和元年度の結果です3)。平均寿命と健康寿命の差をみると、日常生活に制限がある期間は、男性8.73年、女性12.06年となり、女性の方が日常生活に制限がある期間が長いということがわかります。健康寿命と平均寿命の差である日常生活に制限がある期間(不健康な期間)は、健康上の問題によって、日常生活の動作、外出、仕事、学業、家事、運動などが制限されてしまう期間になりますので、せっかく長生きするなら、健康である期間を延ばしていく方がよいですね。男性は寿命の伸び以上に、健康寿命を延ばしていくこと、女性は健康寿命を延ばして両者の差を縮めていくことが重要です。

健康寿命のリスク因子となる生活習慣

健康寿命を延伸するには、病気にならない、病気になってもそれを重症化させないということが大切です。令和4年の死因順位では、第1位がん(24.6%)、第2位心疾患(14.8%)、第3位老衰(11.4%)、第4位脳血管疾患(6.8%)となっています4)。死因のほとんどが生活習慣病です。生活習慣病は、その発症に食事、運動、喫煙といった生活習慣がかかわっていることが明らかになっています。それゆえ生活習慣の改善によって発症を予防できる、あるいは発症しても重症化させないことができます。 がんのリスク因子としては喫煙、飲酒、運動不足、肥満・やせ、野菜・果物の摂取不足、塩蔵食品の過剰摂取が挙げられています。

第2位の心疾患、第4位の脳血管疾患はいずれも循環器疾患です。両者を合わせると21.6%になります。循環器疾患は、血液を全身に循環させる心臓や血管などが正常に働かなくなる病気で、高血圧、心疾患(心筋梗塞など)、脳血管疾患(脳梗塞、脳出血など)があります。循環器疾患は命が助かったとしても、麻痺などの後遺症が残り、寝たきりになってしまう原因にもなります。循環器疾患のリスク因子として高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙が挙げられます。からだの状態として肥満や高血圧があれば、まずはそれを改善すること、すなわち適正体重を維持する、血圧を下げることが大切になります。血液検査でLDLコレステロール値が高ければ、これを下げるということが重要となります。そしてこれらにはいずれも食事、運動、喫煙といった生活習慣と関わっています。食べすぎをさけ、適度に運動する、食塩摂取量を減らす、野菜や果物、乳製品を増やす、肉の摂取に偏らず、魚や大豆といった食品も摂取するなどがあげられます。これらはがんのリスク因子とも重なります。このように、日々の生活習慣、とくに食習慣によって、病気にならずに健康を維持していくことが、健康寿命の延伸につながります。

誰もが自然と健康になれる環境づくり

生活習慣は個人の生活の仕方次第で変えられることも多いですが、自分一人では変えることができないことも多くあります。正しい知識があり、健康になる、そのためには生活を変えるといった強い気持ちがあったとしてもうまくできないことも多くあります。健康的な食事を毎食食べられるか?となると、時間も必要、お金も必要で、食事を最優先にした生活ができるわけではありません。家族や友人との関わり、そして職場環境など生活全体が関わって生活習慣が形成されています。一人一人が生活習慣を見直すことがまずは肝心ですが、社会全体が、健康になりやすい環境を提供していくことも必要です。

例えば、食産業でできることとして、減塩推進のために、これまでより薄味のお弁当や惣菜を販売する、減塩の調味料を販売するなどがあるでしょう。また産業界では、企業がそれぞれ従業員の健康に投資する、すなわち健康経営に取り組むことが挙げられます。社員食堂で、野菜や果物をしっかりとれるような料理を提供する、それらを選択しやすいようにするなど、働く場で健康な食事へのアクセスが容易になる環境作りなどの取り組みが挙げられます。このように社会全体で健康な食事につながりやすい環境を考えていくことも健康寿命の延伸に必要です。

従業員の健康を考えて、健康な食事を提供する社員食堂を設けるというのは、健康経営の具体的な取り組みの一つです。働く場でも健康になりやすい環境を整えることに投資すること、すなわち従業員の健康に投資することで、病気にならずに生き生きと働くことができれば、生産性の向上にもつながります。

 

引用文献
1)World health statistics 2022: monitoring health for the SDGs, sustainable development goals|WHO https://www.who.int/publications/i/item/9789240051157
(アクセス日2024年9月3日)
2)内閣府 令和5年版 高齢社会白書 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2023/html/zenbun/s1_2_2.html(アクセス日2024年9月3日)
3)厚生労働省 健康日本21(第三次)推進のための説明資料その2chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.mhlw.go.jp/content/001158871.pdf 令和5年(アクセス日2024年9月3日)
4)厚生労働省 令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/index.html(アクセス日2024年9月3日)

石田 裕美(いしだ ひろみ)
女子栄養大学 栄養学部長

学歴
昭和58年3月 女子栄養大学 卒業(管理栄養士)
昭和60年3月 女子栄養大学大学院修士課程修了
平成4年3月 女子栄養大学大学院博士後期課程修了 博士(栄養学)

職歴
昭和60年4月 女子栄養大学 助手
平成 7年4月  同      専任講師
平成11年4月  同      助教授
平成17年4月  同      教授 現在に至る

学会・社会活動
日本給食経営管理学会理事長
日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会構成員

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