PREVIOUS POST
なぜこの仕事を続けているのだろう
2021.06.11
コラム
投稿者:石山 麗子
6月を迎え、多くの地域では梅雨入りが報告されています。温暖化もあいまって、夏の暑さは年々厳しさを増しています。温度、湿度ともに上昇するこの時期に、特に気をつけたいのは食中毒です。高齢者の中には正しい日付がわからない、日付と食品の賞味期限を照らし合わせて管理することが難しい場合があります。「もったいない」との気持ちから、賞味期限が切れたものを召し上がり、体調を崩されることもあります。
冷蔵庫内に保管してあれば大丈夫!と安心しがちですが、特にこの季節、冷蔵庫の設置位置やドアの開閉の回数等によって、庫内の温度が安定しないこともあります。高齢者の栄養ケアマネジメントの重要性に注目が集まっています。それと同じくらい生活のなかで大切なことに、食材の管理があります。高齢者が安全で健康を維持できるような配慮が必要です。もし、腐ったものを食べ、嘔吐や下痢の症状が出現すれば、発汗量も多い季節ですから脱水、電解質異常を招きやすくなります。高齢者は数日寝込むと、体力、筋力低下、それに認知機能の低下も生じ、一度崩した体調を取り戻すには、本人と周囲の多くの方の協力と努力が必要になります。専門職は、悪化した心身機能の回復や改善に向けた介入を行うだけでなく、生活の中での“当たり前”が着実に行われるよう生活の基盤となるものにも着目します。
近年、独居、老老世帯など世帯の規模は縮小化しています。食材を購入しても、上手に使いきることは容易ではありませんし、メニューは偏りがちです。介護保険の訪問介護では、調理のサービスを提供できますが、統計の観点から近年の傾向をみると1回あたりの訪問時間は最も短い単位となる20分未満が増加しています(表)。
その理由として考えられることは、一つ目に政策的に行われている給付の適正化、二つ目にヘルパーの人材不足が影響しているものと考えられます。かつて介護保険制度が施行された頃、ヘルパーは高齢者の好みに合わせて煮物や焼き魚などの家庭的な料理を1時間ほどかけて調理していました。しかし、社会情勢は変化しました。人口減少社会は一層進展し、かつてのように手厚い調理の援助を個別に受け続けることなど難しいでしょう。では、高齢者の食は軽んじられて良いのでしょうか。食は命の基盤です。高齢者にはリハビリテーションを受けている人も多くいらっしゃいます。例えば、タンパク質を摂取せずリハビリを重ねるなら、効果が得られないばかりか筋繊維を傷めかねません。自宅、施設など高齢者がどこに暮らしていても、尊厳、健康を保持し、楽しみとしての食が確保される、そのような今日的な高齢者の食のサポートのあり方が問われています。
配食弁当は多くの高齢者の食を支える有力な方法です。安否確認も併せて受けられるメリットがあります。他方、弁当は液だれ防止等から、食材に含まれる水分の量は少ないといわれています。一日あたりの水分量を適切に摂取するために、食事から得られなかった水分を飲水によって賄う必要が出てきます。とはいえ、そのような模範的な行動を続けることは容易ではなく、また現実的でもありません。
図.食事から摂取する水分量の目安.出典:厚生労働省「健康のため水を飲もう」推進運動
主菜、副菜が1色ずつ小分けにされた調理済の冷凍食品は、使う分だけ解凍できますし、調理も不要ですから失火の心配もありません。食材を余らせ、古くなったものを食べて食中毒になる心配もありません。さらに、栄養や水分も管理栄養士により計算されていますし、家庭的なメニューもそろっています。高齢者のお宅には、レンジがない場合もありますが、湯煎で解凍することもできます。季節、世帯の規模や体調など、個々の状況や好みに応じて、上手に冷凍食品を食事に取り入れていく方法は、これからの高齢社会における食の可能性を広げる有効かつ有力な方法になりそうです。
国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授
博士(医療福祉学)、主任介護支援専門員、社会福祉士
実践(福祉・介護の現場実践と厚生行政における介護保険制度改正)を経て現職。
ケアマネジメントの質の向上を実践・研究・教育の3つの側面から試みている。
実践の概略は次の通り。障害児入所施設、障害者就労支援、高齢者施設、
居宅介護支援事業所におけるマネジメントとシニアケアマネジャーとして140名のケアマネジャーを統括。
職能団体では、区・都・全国規模の各組織で常任理事に就任。
厚生労働省老健局振興課・介護支援専門官を経て、2018年4月より現職。
19年度に日本初のケアマネジメントを専門とした修士課程「自立支援実践ケアマネジメント学」を創設。
政府の委員会で委員を複数歴任。
著書
身近な事例で学ぶケアマネジャーの倫理(共著:中央法規)
福祉・保健・医療のための栄養ケア入門: -多職種連携の栄養学-(共著:建帛社) 等多数