PREVIOUS POST
新たな出会いと学び
2026.01.09
コラム
投稿者:川嶋 比野
これまでのコラムでは、食器の青色の割合、彩度、そして料理との相性が、食欲に大きな影響を与えることをご紹介しました。最終回となる今回は、さらに細かな要素である「絵柄」と「絵柄の大きさや配置」が、食欲にどう影響するのかを、より深く掘り下げていきます。これらの要素は、食器のデザインにおけるアート性の部分であり、料理を「作品」として昇華させる上で不可欠な要素です。
研究では、「染付」の食器でよく使われる「植物柄」、「幾何学柄」、「風景柄」、「動物柄」の4種類の絵柄を比較しました。。
(図1 絵柄の種類を検討する調査に使用した皿および青色の割合)
料理は和食とし、温菜と冷菜を比較するためにそれぞれ 4 品ずつ、大皿料理・魚介料理・単品料理・和菓子類で検証しました。
(図2 各絵柄の評価の順位)
この結果には、日本の食文化と美意識が深く関わっています。和食は元々、自然の食材を活かし、旬の移り変わりや季節感を大切にする文化です。例えば、春には桜、夏には朝顔や笹、秋には紅葉、冬には椿や松といった季節の植物が器の絵柄に用いられてきました。これらの植物柄は、単なる装飾ではなく、料理が持つ「季節感」をより豊かに演出し、料理と器が一体となってお客様に語りかける効果があるのです。そのため、植物柄は私たちの無意識下で料理と調和し、より豊かな食体験を演出すると考えられます。
一方、幾何学柄は評価が低い傾向が見られました。これは、規則的で人工的な幾何学模様が、料理の自然な形や色を邪魔してしまうためかもしれません。また、動物柄も比較的好評価でしたが、風景柄は評価が分かれる傾向がありました。このことから、器の絵柄は、料理の持つ自然な生命感や季節感と調和するものが好まれやすいという結論が導き出されます。
しかしながら、植物柄以外の絵柄はおすすめしないと言っているわけではありません。もちろん幾何学柄や動物柄や風景柄にも、いろいろな種類や雰囲気がありますし、それらと相性がぴったりの料理もあると思います。
専門店では、できる限り、その料理にベストの食器を選んで提供した方がよいと思います。しかし、集団給食や家庭などでは、用意できる食器の数も限られるかと思います。何にでも無難に相性のよい色や絵柄の食器があったら便利だと思いませんか?そんな時にこの研究結果を参考にして欲しいと思っています。
同じ植物柄であっても、絵柄の大きさも重要な要素です。この点について検証するため、青色の割合は同じ約40%に揃え、絵柄の大きさを変えた皿で調査を行いました。
(図3 絵柄の大きさを検討する調査に使用した皿および青色の割合)

その結果、ほとんどの料理で「大柄な絵柄」の評価が高い傾向が見られました。大柄な絵柄は、それ自体がアートとしての存在感を持ち、料理と一体となって視覚的なインパクトを与える効果があります。絵柄が大きく認識できるほど、そのデザインが料理の全体的な印象に貢献する度合いが大きくなるのでしょう。このことから、器の選び方次第で、料理の魅力を何倍にも高めることができることがわかります。
(図 4 絵柄の大きさや種類が食欲に与える影響)

また、大柄と小柄の評価に最も差が見られた卵焼きの盛り付け画像について、皿の白地部分を抽出した画像を作ってみました。
(図 5 盛り付け皿の白地部分を抽出した画像)

白色の割合は各皿とも約45~49%であまり差がありませんが見た目での白い部分のひとかたまりの面積は大柄の方が大きく見えますよね。大柄の評価が高い理由は、ここにもあると思います。青色の絵柄と白地部分の境目がはっきりとしており、白地部分を白色として認識できることで料理の色が映えるのだと思います。
料理と食器の配色においては、トーンの差が感じられることが重要なのです。食器と料理の境目にきちんと色のトーンの差が出ていると料理が引き立っておいしく見えます。
さらに、絵柄の配置も重要です。部分柄の絵柄の数や皿を囲う青枠の有無で比較調査して検証してみました。
(図 6 絵柄の数や青枠の有無が異なる皿に小皿料理を盛り付けた写真)
全体的には絵柄 2 個で青枠有りの皿の評価が最も高く、小皿料理をおいしそうに見せ、食欲を増進させることがわかりました。
(図 7 絵柄の数と青枠の有無が見た目のおいしさに与える影響)

しかし、かぶの絵柄では、絵柄1個の評価の方が高かったのです。以下の写真を見るとわかる通り、かぶの片方の絵柄が料理で隠れ葉っぱの部分しか見えなくなっています。これが、おいしそうに感じない要因の1つと考えられます。
(図 8 柄 2個・青枠有の「かぶ柄」の皿に卵焼きを盛り付けた写真)
つまり絵柄は、認識できる大きさで、料理を邪魔しない適切な位置にあることが、料理をおいしく見せるための重要な要素なのです。例えば、皿の縁に沿って絵柄が配置されているものは、料理の中央に置かれるメインの食材を引き立てつつ、美しいデザインを楽しむことができます。料理人が盛り付けの際に、絵柄をどのくらい見せるか、どの向きで配置するかまで意識することで、提供する一皿の価値を高めることができます。
これまでの4回のコラムで、染付が持つ奥深い魅力は、単なる「青」という色だけでなく、これらの繊細なバランスの上に成り立っていることをお伝えしてきました。
食欲を減退させると言われる青色であっても、その「割合」、「彩度」、「絵柄」、そして「大きさや配置」といったさまざまな条件を適切に満たすことで、料理をより一層おいしそうに見せることができるのです。
以下に結果をまとめます。
①食器の選定: 新しい食器を導入する際は、洋食用であれば、青色の割合が10~20%程度、和食や中華用には40%程度の染付皿を選ぶことで万能に使えるでしょう。絵柄は大きめの植物柄がおすすめです。部分柄の場合には、絵柄が左右を囲うように2 個あり、青枠が有るものを選ぶと良いです。
②メニューとのマッチング: 冷たい料理には、青色の器が清涼感を増すため、染付皿や青磁皿がおすすめです。一方、温かい料理や暖色系の料理には、真っ青な皿や青色の割合が極端に高い皿を選んではいけません。白い部分がある程度の面積を占めるお皿を選ぶと良いです。
③盛り付けの工夫: 器の絵柄が生きるように、盛り付けを工夫しましょう。何の絵柄なのか見えるように、盛り付けの量や配置にも細心の注意を払うことで、一皿全体の美しさを高めることができます。
今回のコラムでご紹介した知見が、お客様に「おいしさ」をより深く感じていただくための新たなヒントとなれば幸いです。このような貴重な機会を頂いたフジ産業株式会社様に心より感謝申し上げます。

戸板女子短期大学教授
実践女子大学大学院卒
学位: 博士 食物栄養学
資格: 管理栄養士
大学院修士課程卒業後、食品総合商社でレストラン等へのメニュー提案業務や惣菜商品開発を経験。その経験を活かし、さまざまな専門学校や大学でフードコーディネートや調理の授業を担当する講師となる。 2009年からは、食器の色と絵柄と美味しさの関係の研究を始め、その研究結果をまとめて実践女子大学大学院にて博士(食物栄養学)の学位を取得。2012年より戸板女子短期大学の専任教員となり、現在に至る。