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【連載】学校給食における食物アレルギー対応の最前線

第1回:最新の疫学と原因食物の変遷
~「鶏卵・牛乳・小麦」だけではない、急増する木の実類と果物・野菜によるPFAS~

2012年(平成24年)、東京都調布市の小学校で発生したアナフィラキシーによる死亡事故から10年以上が経過しました。この間、文部科学省を中心に学校給食の対応指針が整備され、現場の安全管理意識は飛躍的に高まりました。しかし、アレルギーを取り巻く環境は今この瞬間も変化しており、かつての「常識」が通用しないケースが増えています。

本連載では全4回にわたり、学校給食に関わる職員が知っておくべき最新知見と実務について解説します。第1回は、最新の疫学調査結果から見える変化を深掘りします。

1. 止まらない有病率の増加と学校のリスク

まず私たちが再認識すべきは、食物アレルギーを持つ児童生徒が依然として増加し続けているという事実です。

公益財団法人日本学校保健会が2022年に実施した全国調査によると、小中高生の食物アレルギー有病率は6.3%に達しました。これは児童生徒の約52万人に相当します。2004年の2.6%、2013年の4.5%という推移と比較すると、その増加傾向には依然として歯止めがかかっていません。特筆すべきは、命に関わる重篤なアレルギー症状「アナフィラキシー」の有病率です。アナフィラキシー有病率は0.62%(約5万2千人)であり、これは2013年比で約4.4倍に急増しています。いまや「200人に1人以上」がアナフィラキシーの既往を持っていることになります。こどものアナフィラキシーの原因はほとんどが食物であり、どの学校においても緊急事態が起こりうる状況にあります。

また、アナフィラキシーに対する唯一の薬剤であるアドレナリン自己注射薬「エピペン®」の学校における使用実態も深刻です。2021年度、校内でのエピペン®使用数は1,415件に上りました。これは所持者の約3.5%にあたります。一般にエピペン®の使用率は処方数の約1%程度と言われており、学校は通常よりも3倍以上高い確率でアナフィラキシー事故が起こりうる「ハイリスクな現場」であると強く認識しなければなりません。

2. 「3大原因食物」の激変と「木の実類」の脅威

これまで、食物アレルギーの原因といえば「鶏卵・牛乳・小麦」が3大原因食物とされてきました。しかし、近年の調査でその勢力図は劇的に変化しています。

消費者庁の食物アレルギー実態調査では、長年2位と3位だった牛乳と小麦が順位を下げ、代わってクルミが急浮上し、原因食物の第2位となりました。背景には、健康志向に伴うナッツ類消費の拡大があると考えられています。いまや我が国の食物アレルギー3大原因食物は「鶏卵・クルミ・牛乳」の時代です。なお、木の実アレルギーと一般的には呼ばれますが、木の実類を一括りに除去する必要はなく、むしろ個別に診断がなされるべきです。すなわち、頻度の1番多いクルミアレルギーがあったとしても、2番目に多いカシューナッツアレルギーを発症するかどうかは別物と考えることができます。但し、クルミ-ペカンナッツ、カシューナッツ-ピスタチオは強い関係があり、片方の除去が必要であれば、もう片方のナッツも除去する必要があります。

さらにナッツ類アレルギーの特徴は、微量でも重篤なアナフィラキシーを引き起こすリスクが非常に高いことが指摘されます。こうしたリスクと頻度を鑑み、専門家からは「除去対応を行う以前に、献立からクルミ・カシューナッツ・ペカン・ピスタチオを完全に排除することが、最も確実な安全策である」との指摘もなされています。

3. 学童期に注意すべき「PFAS(花粉・食物アレルギー症候群)」

食物アレルギーの原因食物は、年齢とともに変化します。乳幼児期に多い鶏卵・牛乳・小麦は成長とともに耐性を獲得(治る)するケースが多い一方、学童期以降に新規発症が増えるのが「果物類」や「甲殻類」です。

特に近年、小学校高学年から中高生を中心に増えているのが「花粉・食物アレルギー症候群(PFAS:Pollen Food Allergy Syndrome)」です。

これは、花粉症(ハンノキ、シラカバ、イネ科等)の児童が、その花粉とタンパク質構造が似た果物や野菜(バラ科やウリ科など)、豆乳を食べたり飲んだりすることで発症します。症状の特徴は、 食後直後の口腔内の違和感(イガイガ、腫れ)が主であり、豆乳を除き、全身症状に至るリスクは比較的低いとされています。 原因タンパク質が熱や加工に弱い(タンパク質の構造が壊れる)ため、「生では症状が誘発されるが、缶詰や焼き菓子などの加熱品は可」というケースが多いことが特徴です。

学校給食ではデザートとして「生の果物」が提供される機会が多く、個別対応に苦慮する場面が増えています。

4. 複雑化する現場と「誤食」の防衛線

原因食物の多様化は、調理・配膳現場における「誤食」のリスクを直結させます。

法規制も動き出しています。2026年(令和8年)は、カシューナッツの食品表示義務化(特定原材料への格上げ)とピスタチオの推奨化が施行される予定です。これにより、クルミと同様に厳格な表示確認が可能となりましたが、裏を返せば、それだけ患者が多いこととリスクが高いこと、また現場での確認項目が増えたことを意味します。

次回の連載では、こうした複雑化するアレルギー情報の中で、学校がいかに安全を確保すべきか、その要となる「学校生活管理指導表」の正しい運用について解説します。

今井 孝成(いまい たかのり)

1996年東京慈恵会医科大学卒業。
同年、昭和大学医学部小児科学講座に入局。国立病院機構相模原病院小児科医長などを経て、2019年より昭和大学医学部小児科学講座教授、および昭和大学病院小児医療センター長を務める。
医学博士。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・指導医の資格を有し、専門は小児アレルギー学。
学会活動では、日本小児アレルギー学会および日本小児臨床アレルギー学会の副理事長、日本アレルギー学会理事などを歴任。
臨床の最前線に立つ傍ら、食物アレルギーや食育に関する研究・普及活動にも精力的に取り組んでいる。

 

 

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