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【連載】学校給食における食物アレルギー対応の最前線/第4回

第4回(最終回):命をつなぐ:緊急時対応と子どもの自立支援
~エピペン®の迷いなき使用と「心のケア」~

本連載ではこれまで、最新の疫学、指導表の運用、組織的な体制づくりを解説してきました。しかし、どれほど「予防」を徹底しても、ヒューマンエラーによる誤食リスクをゼロにすることはできません。

最終回は、万が一の際に命を守る**「緊急時対応」の鉄則と、子どもたちが社会へ羽ばたくための「自立支援」について詳述します。

1.学校は「エピペン®使用」の最前線である

まず、学校現場の緊迫感を数字で認識する必要があります。最新の調査データ(令和3年度 文部科学省調査)において、全国の公立小・中・高校において、食物アレルギーがある児童生徒のうち、当該年度中に校内で症状が出現したケースは18,287件に上ります。そのうち、エピペン®(アドレナリン自己注射薬)が使用されたのは558件でした。

学校給食は全校生徒が一斉に喫食する時間であり、担任は配膳や指導に追われています。その中で異変を見逃さず、適切なタイミングでエピペン®を使用するには、個人の判断に頼らない事前のシミュレーションが不可欠です。

2. 緊急時対応の鉄則:エピペン®を「いつ」打つか

アナフィラキシー対応の成否は、アドレナリン(エピペン®)を「遅滞なく投与できるか」にかかっています。

① 判断基準は「13の症状」
日本小児アレルギー学会が提唱する「緊急性の高い症状(13症状)」のうち、一つでも当てはまれば即座にエピペン®を使用します。「ぐったりしている」「ゼーゼーする」「持続する強い腹痛・嘔吐」などは極めて危険なサインです。

② 飲み薬に期待してはいけない(最大の誤解)
現場で最も危険な判断は、「まずは処方されている飲み薬(抗ヒスタミン薬)で様子を見よう」とすることです。よく事前に処方されている薬剤として、抗ヒスタミン薬とステロイド薬があります。抗ヒスタミン薬は 皮膚の痒みには効きますが、呼吸困難やショック状態には無効です。ステロイドは効果発現まで数時間かかるので、アナフィラキシーの現場では役に立ちません。そのなかで、アドレナリンは 命に関わるアレルギー症状を抑える唯一の薬剤です。「飲み薬で様子見」をしている間に症状が悪化し、手遅れになるリスクを避けなければなりません。。

3. 「体位」が生死を分ける:絶対に立たせてはいけない

エピペン®の使用と同じくらい重要なのが、発症時の「姿勢」です。
アナフィラキシーショック時は血圧が急低下し、脳や心臓に血液を送るのがやっとの状態になります。ここで急に立ち上がらせると、血液が下半身に溜まり、心臓が空っぽになって心停止することがあります。

守るべき体位の原則として、基本は 仰向け(仰臥位)にし、足を30cm程度高く上げます。嘔吐がある場合は、顔を横に向け、あるいは横向きに寝かせます。

とくに厳禁なのが、 「歩かせる」「立たせる」「おんぶ(縦抱き)にする」などです。トイレに行かせるのも厳禁です。移動が必要な場合は、担架などで水平に運びましょう。

4. 食物アレルギー児の「心」を守る

アレルギー対応は、身体の安全確保だけではありません。食物アレルギーの児童生徒は孤独感と不安に悩まされています。 毎日の食事で「死への恐怖」や「周囲との疎外感」を抱く子どもは、非アレルギー児に比べ鬱傾向が高いという報告があります。

また 食物アレルギー児の約4人に1人がいじめを経験しているというデータもあります。「好き嫌い」「大げさ」といった無理解な言動は、心理的ダメージだけでなく、アレルゲンの強要という命の危険を招きます。

担任等は食育の時間を利用して、クラス全体に対し「アレルギーは命に関わる大切な問題である」という教育を継続的に行う役割を担っています。

5. 「守られる」から「自ら守る」へ:自立支援

子どもはいずれ学校を卒業し、自分の命を自分で守るステージへと移ります。これを「移行期医療」と呼びます。給食の時間は、そのためのトレーニングの場でもあります。

食物アレルギーの児童生徒が高学年になったら、 除去食の最終確認を児童自身と一緒に行う、食品表示を読み解く練習をするなど、段階的に「ヘルスリテラシー」を育みます。食物アレルギーの児童生徒見守る学校職員が「困っていることはない?」と声をかける。その一言が、孤独な闘いをしている子どもにとっての大きな支えとなります。

6. まとめ:チーム学校で命と未来を守る

全4回にわたる連載のポイントを振り返ります。

1. 最新情報のアップデート: 原因食物の変遷(木の実類の急増)を知る。
2. 診断情報の活用: 「指導表」に基づき、過剰な除去を防ぐ。
3. 組織対応の徹底: 「委員会」で決定し、給食では「二者択一」を貫く。
4. 緊急時と心のケア: 迷わずエピペン®を使い、自立を支援する。

アレルギー対応は、特定の教職員だけの仕事ではありません。管理職、担任、養護教諭、栄養教諭、調理員、そして保護者と主治医。この「チーム学校」の連携こそが、子どもたちの命を守り、安心して学べる環境をつくります。

 

今井 孝成(いまい たかのり)

1996年東京慈恵会医科大学卒業。
同年、昭和大学医学部小児科学講座に入局。国立病院機構相模原病院小児科医長などを経て、2019年より昭和大学医学部小児科学講座教授、および昭和大学病院小児医療センター長を務める。
医学博士。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・指導医の資格を有し、専門は小児アレルギー学。
学会活動では、日本小児アレルギー学会および日本小児臨床アレルギー学会の副理事長、日本アレルギー学会理事などを歴任。
臨床の最前線に立つ傍ら、食物アレルギーや食育に関する研究・普及活動にも精力的に取り組んでいる。

 

 

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