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ピッカりーんできた!が聞きたくて ― 保育園給食をつくる私の仕事
2026.04.10
コラム
投稿者:今井 孝成
第2回では、アレルギー対応のパスポートである「学校生活管理指導表(以下、指導表)」の重要性と、医師による診断情報の読み解き方を解説しました。
指導表が提出された後、学校は「どう提供するか(あるいは止めるか)」を決定しなければなりません。ここで最も避けるべきは、担任や栄養教諭が「個人」で判断してしまうことです。今回は、事故を防ぐための組織的な安全管理体制と、保護者面談のポイントについて詳述します。
指導表を受け取った後、まず行うべきは「組織としての決定」です。文部科学省のガイドラインでは、校内における「アレルギー対策委員会」の設置を求めています。
しかし、文科省の調査(2022年)では、委員会を設置(または関連委員会で対応)していない学校は、小学校で16.5%、中学校で21.9%存在します。委員会が存在しないまま、担任や栄養教諭個人の判断で対応し、もし重大な事故が起きたらどうなるでしょうか。「組織として安全管理措置を講じていなかった」と見なされ、学校側の責任は重大となります。
委員長は「校長」であり、 最終責任者は必ず管理職が務めます。委員会の主な役割として、 栄養教諭や養護教諭が作成した「取り組みプラン(案)」を、校長の責任において承認・決定することになります。
現場の栄養教諭や調理員を最も悩ませるのが、「少しなら食べられる」というケースです。ここで教育者としての善意が働くと、「つなぎ程度なら……」と複雑な個別対応に踏み込んでしまいがちですが、これは事故への近道です。
学校給食は大量調理の場であり、家庭のような微調整は不可能です。給食提供の「鉄則」は二者択一の対応です。医師から解除の判断がなされて初めて他の児童生徒と同じ給食を提供し、解除の判断がでていない場合は、完全除去対応となります。「条件付きで食べる(少量なら可、加熱なら可)」という曖昧な選択肢を現場に持ち込まないことが、誤食事故を防ぐ最大の防衛線となります。
「取り組みプラン」を決定したら、保護者との面談を行います。特に新入学児の保護者は強い不安を抱えています。
① まずは「傾聴」から:
家庭での苦労や、これまで起きた症状について丁寧に耳を傾けます。信頼関係の構築が、その後の「学校ができること・できないこと」の説明をスムーズにします。
② 「できないこと」をはっきり伝える:
「だし汁だけは共有してほしい」「配膳後に自分で取り除かせるから出してほしい」といった要望は、コンタミネーション(微量混入)や誤認のリスクを高めるため、断る勇気が必要です。安全管理が担保できない要望には、医学的根拠(指導表)に基づき、組織として「できない」と伝えることが、結果的に児童の命を守ります。
③ 専門職の同席:
面談には管理職、担任、養護教諭に加え、栄養教諭・学校栄養職員の同席が不可欠です(小学校での同席率は63.1%にとどまっています)。特に重症児やエピペン所持者のケースでは、食の専門家として直接説明を行うことが期待されます。
調理過程での微量混入を100%防ぐことは困難です。このため最重症患者には、無理に給食を提供せず、「弁当対応(家庭からの持参)」を選択することは、決して「逃げ」ではなく、命を守るための正当な安全管理です。文部科学省が示している最重症児の目安に該当する場合は、「弁当対応」を組織の決定として伝えることで、保護者の理解も得やすくなります。
アレルギー対応において、「あの子だけ特別に」という個人の判断は「優しさ」ではありません。
1. 委員会で組織として決定する
2. 給食では「白か黒か(提供か除去か)」のルールを徹底する
3. 保護者には「できないこと」を明確に伝え、合意を得る
これらを徹底することで、児童生徒の命を守ると同時に、現場の教職員を「事故の責任」というリスクから守ることにもつながるのです。。
次回予告:第4回(最終回)「命をつなぐ:緊急時対応と子どもの自立支援」

1996年東京慈恵会医科大学卒業。
同年、昭和大学医学部小児科学講座に入局。国立病院機構相模原病院小児科医長などを経て、2019年より昭和大学医学部小児科学講座教授、および昭和大学病院小児医療センター長を務める。
医学博士。日本小児科学会専門医、日本アレルギー学会専門医・指導医の資格を有し、専門は小児アレルギー学。
学会活動では、日本小児アレルギー学会および日本小児臨床アレルギー学会の副理事長、日本アレルギー学会理事などを歴任。
臨床の最前線に立つ傍ら、食物アレルギーや食育に関する研究・普及活動にも精力的に取り組んでいる。