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パン屋で売れる給食のパン

皆さんは給食の手作りパンにどんな印象がありますか。
給食の手作りパンを思い出すと、過去の私ならため息と共に「パンはパン屋さんに任せておけばいいのに」と毒づいていました。

私の食べてきた給食の手作りパンは 硬くて、目が詰まっていて小麦の風味がない固い塊でした。
手作りナンなんて最悪です。鉄板に5枚しか乗らないし、伸ばしてもすさまじい伸縮能力で小さくなって、焼けたころにはクッキーのような歯ごたえのある不思議な食べ物に変貌しました。

とにかく過去の私はパンに苦手意識がありました。パンはパン屋に任せておけばいいのに。

しかし現在所属している中学校で働くようになり、私の意識は変わりました。
なんだ これ、一個250円で売れるんじゃない?
給食のパンが納品業者のパンよりおいしいなんて、初めて経験しました。
赴任して2年弱、私の一番のお気に入りはレーズンパンです。
今日は手作り、ツナマヨパンですので、我らがN Sベーカリーと呼ばれる給食室の秘伝を伝授いたします。

「今日の献立とパンの日の作業工程」
3月になり3年生が卒業目前ということもあり、N Sベーカリーに3月中2回手作りパンをしてほしいと要望がありました。

今日の献立
手作りツナマヨパン ポトフ おつまみナポリタン

卒業生に手作りパンを味わってほしいとアレルギー除去用手作りパンも別につくることになりました。手作りパンの日の献立は大抵同じで、野菜とお肉が沢山入った煮込み料理、足りない炭水化物を補うパスタ料理が副菜でつきます。
煮込み料理のブロック肉は一度湯がいた後に別鍋を使用し鶏ガラで二時間煮込んでホロホロにします。
料理完成時間は11時35分設定、リフトUPは12時25分。
逆算してポトフは10時50分、ナポリタンは11時に取り掛かれば間に合います。

今日は社員3人・パート2人体制、切り物、下処理、調味料で分かれて作業を進めていきます。パンは240食分、2回転で生地を捏ねるので、120人前ずつ 粉を振るい準備。
パン生地作り開始は、1回目、7時45分~。2回目、8時~で、時間をずらして行います。今回の役割は調味料・下処理の人が担います。
生地を捏ねる場所は回転釜の裏、壁に台を密着させて力を込めて生地を捏ねれる、隅が最適。しかも鶏ガラを煮ているので、アツアツの空気が発酵を促進し、夏は意識朦朧となるレベル、冬は生地も冷たくなって壁からも冷気が漂ってパンにも人間にも最悪の環境になります。

パン生地に入れるお湯はその日の気温にもよりますが36℃前後で冬は少し熱めに。
粉類をざっと混ぜてから溶かしバター、オイル、ぬるま湯を加えて一気に練りこむのです。
120人前の約12キロ、ヒーヒー言います。ほんとは捏ねたくありません、腰に優しくない。
捏ねられたパン生地を見て、パンのカリスマと、勝手に私が呼んでいる、鈴木チーフが容赦ありません。
「石原さんはあと5分かな」
エェェェー…。
パン生地がタライから立ち上がり、タライにくっつかなくなり、まとまりがでて生地をつまんで伸ばすと膜ができます。
自宅でつくる少量パンとは違いますのでグルテンチェックはほどほどに。ここまできたら作業を叩きに移行します。

作業台をひとつパンの叩き台にして、捏ねた生地を全て乗せ、3~4等分にして叩き捏ねていきます。
叩くというのは工程上の表現で、パンのカリスマによると「作業台の表面をなでるように、台に張り付いたパン生地のカスを全て生地にくっつけるように」と絶妙な作業の説明をされますが、赴任当初はよくわかってませんでした。
が、最近は生地をなでなですることができるようになりました。
パン生地がまるで鏡餅のように 表面がつるんとなってきたら完成。捏ねで使用していたタライに少量の油を塗って生地を重ねておきます。
表面をならし、ラップをして時間を書きます。一回目の時間は前後もしますがだいたい8時20分位にできあがります。
60℃位のお湯を張った回転釜にザルを置き、タライがお湯に触れないように設置してからタライを入れてフタをします。
生地に温度計を刺し、33度~35度位になるまで分単位で刻んで様子をみます。
夏場は1~2分で到達しますので注意が必要です、温度がほどよく上がったらタライをとりだし棚に置いて一次発酵させます。

「一次発酵させる間に」
パンの具作り&計量 鉄板や道具の準備。9時に朝礼があるのでせっせと行います。
切り物の人も忙しいです、パスタボイル水冷、肉ボイルからのガラスープで別煮込み、切り物モリモリほぼ一人。
切り物は10時ころまでかかります、食器出ししたパートさんと共にパン作業に加わります。

朝礼後パン担当はタライのパン生地計量 一人分のgを出します。生地を12人分で丸めて10個の塊を作り、1つの塊を12等分にして ひとつひとつ計量して等分し もうひとりが丸め作業をしていきます。
丸めた生地にラップをして乾燥を防ぎます、夏でも冬でも暖房をかけて、お湯をガンガン沸かして室温を上げパンの発酵最優先。
丸めた一人分の生地を広げます、指で空気を抜くように、指先で鉄板に張り付けるように広げ パンの具をのせます
具に生地をかぶせ カリスマチーフは「ちねる」と言いますが、餃子をとじるようによくつまみ、綴じ目を生地と同化させて、綴じ目を下にして鉄板に置きます。

回転釜2つになみなみとお湯を沸かし 長台を並べ 暖かい場所にパンを並べていきます
10鉄板できあがってから20分タイマー。お触り禁止の二次発酵開始。2つ目のタライも同じように作業をします。
夏場と冬場では発酵速度が違いますので経過観察大事。
今日は気温が高いので10時50分頃オーブンに投入予定。温度160℃ スチーム20% 風4 15分 3回転。

10時半頃に一段落するのでポトフ担当はパン作業を抜けて 煮詰まったガラスープ取り出し 回転釜を洗い、ポトフとナポリタンを一人で作り始めます。
11時になったらナポリタン担当がパン作業を抜けます。そのころには一回転目のパンがオーブンに入ってます。焼き上がりを待つばかり。
待ってる間に発酵具合をみてオーブン担当は鉄板を煮沸釜から離したり寄せたり回転させたり発酵の調整

「おいしさは伝わるか」

パンが焼けてもすぐに触らず10分待ち粗熱を取ります。
匂いがね、たまりません。たぶん伝わらないだろうけど想像してください
怒涛の一日の疲れがぶっとびます、昇華。
これにお肉がホロホロの野菜たっぷりポトフと懐かしいケチャップ味のナポリタン
いままで散々パン捏ねてたのに焼きたてを食べたくて仕方ありません。
きっと生徒は匂いだけでおいしさを理解しているんだろうな、NSベーカリーを卒業しても思い出すんだろうな。

給食って最高のお料理教室なんじゃないかと思います。
美味しい物を沢山つくれる環境ってすごい。いろいろあるけど美味しければ許せるコトもあるじゃない。
指示書というレシピが大公開されていて、美味しい物が沢山学べる環境の元にいるのは充実している。

卒業生たちがNSベーカリーを味わえるのは残り1回。
次回はチョコチップパン。きっと調理場はチョコの匂いに包まれる…生徒達の記憶に残りますように。

新宿区は毎月手作りパンがあります。最初はどうなの?パンはパン屋に任せておけばいいじゃないと思ってました。
パン屋より美味しいパンをつくれたら 給食のパンを味わってほしいと思うようになりました。
作って幸せ、たべて幸せ。

 

 

石原 泰子

2008年入社。CFS事業本部 東京学校保育園支店所属 事業所主任

学校事業所にて給食調理員業務に従事。

主な業務内容は、給食提供、事業所運営管理、

スタッフマネジメントなど。

 

 

 

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