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【給食調理における人材養成・人材開発~調理動作研究より~】3)大量調理の作業分析〜熟練度別人間工学的考察〜
2025.09.12
コラム
投稿者:中島 君恵
前回【給食調理における人材養成・人材開発~調理動作研究より~】3)大量調理の作業分析〜熟練度別人間工学的考察〜において、大量調理の作業工程調査をもとに熟練度別人間工学的考察を行いました。大量調理に分類される給食調理における一つ一つの作業の意味合い、時間配分、作業姿勢などの重要性についてお話させていただきました。
今回は実際の給食施設での作業動作にフォーカスしていきます。
「保育所における食事提供ガイドライン」1)では、保育所給食は子供の発達段階に応じた適正な給食でなければならないとされており、給食・食事は「保育所保育指針」2)では、「第5章 健康及び安全」の中で「食育の推進」を位置づけ、心身両面からの成長に大きな役割を担うとされています。保育所施設、子供の発達において給食の役割は重要であり、前回もお話した通り、給食施設での大量調理は一般の家庭などでの少量調理とは異なります。また、給食現場は調理作業のみでなく、献立作成、発注、検収、配膳、洗浄も一般の調理とは異なりますし、実際の給食調理現場では幼児100食程度の場合、レトルト類や既製品を使用するのではなく、野菜のカットから調理員の手作りで食事が提供されるケースが多いです。近年の共働き世代の増加につれて、手作りの食事サービスを謳う保育園も増加しています。
給食は、安全で栄養バランスのとれた美味しい給食の提供を目指します。その安全で栄養バランスのとれた美味しい給食の提供には調理作業が安全かつ快適で作業できることも重要です。第2回でもお話したアレルギー対応も給食現場としては非常に大事な点になります。2011年に厚生労働省により策定された「保育所におけるアレルギー対応ガイドライン」をうけ、保育園では安全かつ正確な食物アレルギー対応が必要であります。日々の調理の中で、疲労に伴う集中力の低下によりHuman Error3)を起こさないよう、管理者だけでなく調理員自身も作業環境を整える・工夫することが大切になってきます。さらに、調理メニューは日々変わることが前提であり、提供時間が決まっていますので、現場配属された際に現場の一員として活躍できるため教育課程における日々の実習が担う役割は非常に大きいと感じています。
これまでの給食施設を対象とした調査等では調理業務従事者への疲労部位しらべや、実習後の学生への自覚症しらべが中心でした。安全で働きやすい職場環境を構築するためにも、実際の給食施設での材料準備~配膳までの一連の作業を記録し作業分析を実施し、疲労部位と併せた身体負担の検討を行いました。
群馬県内の92名(0~5歳)の園児が通うM保育園の給食施設にご協力いただきました(図1)。2名の女性調理員が日々調理にあたっています。作業者Aは職歴10年であり勤務時間8時間で休憩が60分、作業者Bは職歴4年勤務時間6時間で休憩が30分という勤務体系です(作業者Aが作業者Bよりも1時間早く出勤)。当日のメニューは、油揚げメンチカツ、納豆とモロヘイヤの和え物、粉ふき芋(乳製品除去食:茹でたじゃがいもにだし醤油をかける)、ごはん(乳幼児はお粥)、みそ汁でした(2歳児以下の園児用に刻み食を同メニューで調理)。
調理作業を分析した結果、作業者Aの特徴的な作業として作業台にラップを敷く(図2)があり、その後の調理内容や清掃までを考慮した作業、経験からこのような作業が行われていると考えられます。また、作業者Aはメンチカツのタネを油揚げに詰める前にバットにのばしたタネに箸で目盛りをつけており(図3)、この後、油揚げに種を詰める際にはこの線を基準に作業し、タネ量の調整などは行わず作業されていました。
日々の実習や日常の調理などで100g, 50gなど計量することが多いと思いますが、ぜひこのように重量に対する感覚、具体的には目ばかり、手計といった経験を重ねることで身に着く感覚を身に着けていきましょう。また、作業者Aは作業する上の工夫点として、「力を抜いて切る、焦らずに作業することを心がけている」が挙げられていました。経験を重ねていくことで作業のカンやコツだけではなく、作業環境を整える工夫についても重要です。
これまで、安全で栄養バランスのとれた美味しい給食の提供を目的とした調理に関する科学や人間工学的分析について、お話しさせていただきました。今後も教育現場から新卒の方から勤続40年以上の方まで、皆さんが給食の現場で一人でも多くの方々が活躍できるように研究を重ねていきたいと思います。
<参考文献>
専門:調理科学
女子栄養大学栄養学部卒業後、大和製罐株式会社 総合研究所、桐生短期大学勤務。
1998年に復職し2025年から現職。
管理栄養士。修士(生活学)。